エンタメパレス

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東京国際映画祭2023にトニー・レオン降臨!

 東京国際映画祭2023で10月26日に開催されたマスタークラスにて映画『2046』(04)終映後にアジアの至宝、俳優トニー・レオンが登壇。司会進行役の市山尚三氏とのトークではホウ・シャオシェン監督、ウォン・カーウァイ監督、ふたりに影響を受けて音楽、文学を教わったこと、自らの演技を再構築したことを語りました。

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 公式サイトでトークの内容は公開されているので、こちらでは過去にトニーをインタビューした筆者の目線で当日の模様をお届けします。

https://youtube.com/playlist?list=RDCMUCORSyZr9pmBD1iKJDf3RtNw&playnext=1

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 まずは盛大な拍手に少し恥ずかしそうに手を振って応えながら「こんにちは。トニーです」と日本語で挨拶。

『2046』のなかでは、コン・リー、チャン・ツイィーなど名だたる美女たちとトニー史上最高といえるセクシーな魅力を振りまいていましたが、登壇した本人は円熟身が増した柔らかい笑顔で素敵なイケオジのオーラを放っていました。

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 ゆったりした黒のセットアップには腕と脚のサイドにマスタード色のラインが施されており、一瞬、「ジャージ?」と過去の会見から思ったのですが、実は高級ブランドで初コラボしたsacaiとロロ・ピアーノのもの。

服より目立った派手可愛いスニーカー(「kolor」のものらしい)は、赤のベースに水色が加わりさらに金色のスタッズが光ってました。これにパープルのソックスを合わせたのは本人、妻のカリーナ?、スタイリスト?と気になりました。

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 今回、自ら『2046』を上映作品に選んだ理由を、「この作品は私にとって特別な作品です」ときっぱり。
「この物語は『花様年華』(00)とつながっている。ある意味続編で、私が演じたのは同じ人物です。しかし、ウォン監督から、違った演技で、過去を忘れて新しい暮らしに向かう主人公を見せてほしいと言われました。監督は1本の映画を完成させるのに時間がかかりますし、私もずっと同じ人物を演じるのは大変なので、ひげを付けさせてくださいとリクエストをしたのですが却下されました。それでも絶対必要だと言い張り撮影。のちに、カンヌ映画祭でのプレミア上映後のパーティで、監督から“やはりひげがあって正解だった”と言われました。役者にとっては、何らかのきっかけで役に没入できるのです」
と、自らの提案が役作りに作品に良い結果をもたらしたことを語りました。

 とにかくトークで感じたのはホウ・シャオシェン監督、ウォン・カーウァイ監督へのリスペクトと謙虚な人柄でした。

 ホウ監督が中国語を話せないトニーのために口がきけない役を配役した「悲情城市」(89)その役作りのため、ホテルで孤独な時間を過ごして数多くの本を読んだそうで、
「監督のおかげで文学が好きになり、文学作品の中から登場人物の描写や情感から、芸術に関する認識が深まったと思います」

 また、撮影現場ではプロの役者以外の素人の方もたくさんおり、「彼らのリアルな演技に驚きました。これまでの自分の演技が半信半疑になるほどで、どうすれば彼らのように自然に演じられるのか考えさせられ、演技についても大きな影響を与えられた作品です」

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 1990年製作の『欲望の翼』からの長年タッグを組むウォン監督とは、自分の演技に対しての壁にぶつかっていた頃に出会い、「演技に技巧的なものが多すぎる」と指摘されたといいます。
「監督は僕の作った演技をめちゃくちゃにばらして壊してしまった。完成された映画を観たとき、監督の凄さを感じました。自分の演技がこうなるのかと。役者のいいところを発掘して、引き出すことに長けているのです」

 夕飯のあとウォン監督の事務所でよく雑談をしていたそうで、
「監督はいろんな音楽、文学を紹介してくれました。2〜3年間、毎晩コミュニケーションを取って音楽や文学の世界に入り込んでいったんです。ある時は、村上春樹の小説『ノルウェーの森』の話になり、直子がワタナベを見送るときに直子の表情については書かれていません。その表情はどんなだったのかなど――そんな話をよくしていました」

「監督と一緒に仕事をしてきたこの数十年は2度目の演技訓練の機会だったような気がしています。『悲情城市』に出演したとき、素人の皆さんと同じように自然に演じたいという願いを持ちましたが、ウォン監督との仕事でその願いを叶えました」

「今後はさまざまな国、地域、異なる製作チームでの仕事がしてみたいです。日本の映画に出ることもあるかもしれません。来年ドイツで撮影する映画に出演することが決まりました。今は、8カ月間の準備期間。たくさんの本を読んでリサーチをしています」

 この作品は『心と体と』(17)で知られるハンガリー出身の監督エニェディ・イルディコーによる『Silent Friend(原題)』で脳神経科学者を演じるとか。

 最近は世界的に人気の韓国ガールズグループ『NewJeans』のMVにも登場し、ほんの一瞬ながら凄い存在感で話題をさらったトニー。

 ここ30余年のアジア映画史を体現するレジェンドにもかかわらず、謙虚で真摯な語りにまたも私のなかの「いい人伝説」が更新されました。

 退場するときに、舞台袖に入る場所を間違えたところもなんとも微笑ましかったです。 

 トーク後の楽屋では是枝裕和監督と会っていたことをInstagramで知り、カンヌ映画祭をはじめ賞を総なめの監督とアジアの至宝トニーのタッグの実現を切望!でした。

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第36回東京国際映画祭は、11月1日まで開催。

https://2023.tiff-jp.net/ja/

 

こちらもぜひお読みください。
『祝☆ベネチア映画祭で栄冠!トニー・レオンのいい人伝説』
https://en-pare.com/entry/2023/09/20/190000

 

村上淳子(映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家)
雑誌『anan』のライターとして活動中に香港エンタメに目覚め「香港電影城」(小学館)シリーズに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。好きな香港俳優はチョウ・ユンファ、レスリー・チャン、トニー・レオン、イーキン・チェン、ニコラス・ツェー。