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『シャクラ』公開記念! アクション監督谷垣健治氏スペシャルインタビュー②

『シャクラ』公開記念!アクション監督谷垣健治氏スペシャルインタビュー① 

キャラクターポスターより 喬峯(ドニー・イェン)。とにかくポーズがかっこいい!

『シャクラ』のアクションシーンの神髄と『必殺技』

柚木 ところで話が少し戻りますが、この映画は順撮りだったんですか?

谷垣 アクションに関しては話の頭から順番に撮りました。自分の中では冒頭のシーンが一番計算されたアクションシーンで、現場で演出のコントロールが効いたシーンと言えます。武芸の達人僧チョイ・シウミンが回廊建築の食事所でドニーと対決する場面です。

 先ほど話の出た、ドニーが100人と戦う大バトルシーンは、もうほんと大変で(笑)、人物も多すぎましたし。でも僕は感情の乗ったアクションが好きなんで、めちゃくちゃしんどかったですけど、すごく好きなアクションシーンですね。 

 最初の僧侶と喬峯のアクションは、お互いの立場や流儀でもって戦う、いわゆる「ジェントルマンファイト」で、喬峯としても相手を殺すつもりもないので、それぞれ二人のキャラクターでバトルすればいい。逆に100人の大アクションの場面では、喬峯としては「全員ぶっ殺す!」という覚悟で戦うので、そこの感情レベルがまったく違いますね。

 あと、ここに出てくる游氏兄弟の手下たちは盾が最大の武器なんですよね。その盾のバトルをどう見せるか。一人一人は喬峯と戦うレベルではないので、集団となって盾の戦法で戦う。そこの面白さを演出しました。

柚木 後半には喬峯の必殺技「降龍十八掌」が炸裂しますね!

谷垣 あれもどう見せるか苦労しました。オープニングにもチラ見せしてますが(笑)。実際、必殺技って難しいですよね、表現が。

 そもそも必殺技の技って、だんだんすごくなって名前負けしてる作品って多いですよね(笑)。実際は、例えば「るろ剣」でいうと「龍追閃!」という必殺技などは、主人公が飛んで相手の頭めがけて剣を振り下ろすっていう、極めて普通の技なんですよね(笑)。でもそれを普通に撮っては必殺技に見えないじゃないですか。これを凄そうに撮るには、例えばカメラアングルに工夫を持たせるとかして印象的にするしかない。

 その意味で、今回の「降龍十八掌」の表現というのは僕らなりに考えて出した答えだと思います。ただ、いろいろ武侠もののTVを見ましたが、アクションが出来ないというか身についていない役者さんがやると軽い感じに見えちゃいますよね。エフェクト出せてないというか。

柚木 そうかも(笑)。

谷垣 その点でいうと、ドニーが演じるとほんとにそこからスーパーパワーが爆発してる感じになるのがすごいですよね(笑)!

柚木 するする(笑)。映画見ててよけたくなる(笑)。

谷垣 ですよね? ドニーの場合、元の画に説得力があるので下手にエフェクトとかかけたくなくなります。ドニーがやると「気」が見えるんですよ。そこが他の俳優とはまったく違うところで、全盛期のジェット・リーのアクションにもそれが感じられました。

柚木 今回「十八掌」といっても十八の掌で技を繰り出すわけではないんですね。

谷垣 もちろんそれも考えましたけど、これが僕たちの出した結論ですね。ドニーが演じるのだったら、怒りや感情を乗せて「ぶわー!」と「気」のパワーを炸裂させるというのが一番説得力があったということです。

谷垣健治さんとドニー、そして慕容復役ウー・ユエとの段取りの打ち合わせ。写真提供・谷垣健治氏

『るろうに剣心』との類似点は?

柚木 今回『るろうに剣心』シリーズを経て生かされたアクション演出ってありましたか? 見ていてやはりなんとなく影響を感じましたが。

谷垣 剣を使うシーンがあるのでどうしても意識はします。剣心の使う「飛天御剣流」というのは、1対多数の戦いを得意とする流派で、そのためにスピード感の表現が重要でした。剣をまるで何本もあやつっているように見えるくらい素早い。『シャクラ』でいえば1対100の大バトル、あそこなんかはまさにスピード感、速度感が必要なアクションでしたので、映像のテンポ感や戦い方とかは『るろ剣』と共通した部分がありますね。

 喬峯が四方八方から責められながら、かく乱するために上下左右に跳んだり、急に後ろを振り返りながら敵を斬るとか、なによりもシチュエーションが『るろ剣』と似ていますよね。ネタバレになるから多くは言えませんが、喬峯と剣心にはほかにも共通点が結構ありますよね(笑)。

剣によるアクションシーンは『るろうに剣心』を想起させる。

世界で活躍するアクション監督とし

柚木 そろそろ時間となってきたので、ちょっと『シャクラ』を離れて、谷垣さんへの質問をしたいと思います。世界で活躍しているアクション監督として第一人者になれた秘訣は?

谷垣 うーん、自分が第一人者かどうか、必ずしもそうは思っていないですが…。自分はまだまだ伸びしろがある中堅どころと認識しているので(笑)。

 若いころに香港に行ったり、アメリカに行ったり、日本では分からなかった世界のスタンダードが分かったというのが大きかったですね。それから、世界に出てみて、そのときに出会ったスタッフの人たち、監督やアクション監督やスタントマンたちと、巡り巡ってそのときの人たちと今も一緒に仕事をしているというのを考えると、それが自分の財産になっている感じがしますね。

 わりと自分の成功や正解を若いころに求めなかったのも良かった気がします。香港でスタントマンをやってたときは自分がすごく遠回りをしているような感覚が正直あったんですよ。当時は広東語だってたいしてしゃべれないし、自分と同じようなスタント出来る奴はもっといるわけだしと。でも30代になってから香港映画での経験を買われて、日本でアクション監督やらせてもらったり、Ⅴシネの監督させてもらったり、結局は香港にいたことでいろんなことのショートカットができた。自分が遠回りしてると思ったことが近道だったのかもと思いましたね。

 その後、また香港でアクション映画の仕事をするときに、日本人や香港でスタントやって、日本でもアクション監督までやった奴ということで注目されて、以前は自分がウィークポイントだと思ってたところが逆にセールスポイントになってたという気がします。

柚木 谷垣さんが香港映画を振り出しに、日本映画のアクションの記念碑的作品だと思いますけど、『るろうに剣心』で体得したものを「逆輸入」といったら変ですが、今度は香港武侠アクション映画に生かしているというのも面白いですね。

谷垣 そうなんですよ! 不思議なんですが巡り巡ってこの作品に生かせたのが、さっき言いましたが、遠回りだったですけど正解だったのかもと思う所以ですね。

 もちろんドニー・イェンとの繋がりというのも自分の人生では大きいんですが、そうやって国籍問わずアクション映画に関わってきて、柳のようにあっち揺れたり、こっち揺れたり、フラフラしながら柔軟に生きてきたのがよかったのかなと(笑)。

 

撮影中のエピソードなど

柚木 最後に撮影中の印象的なエピソードを教えてください。

谷垣 そうですね、基本的にドニーの現場はその時々のひらめきを大事にします。

 例えば…そうですね。あるシーンでね、ドニーがジャンプする場面なんですが、普通に跳んでもつまんない、なんかアイデアないかとドニーが言って、僕がひらめいて(笑)、速攻でYouTubeで「ロシア ダンス コサック」と検索してみたら、いいのがあって(笑)。コサックダンスで脚を交差して着地してまたそのままジャンプするやつあるじゃないですか。

柚木 あるある(笑)。どうしてあんなことできるのかのという(笑)。

谷垣 それをドニーやみんなに見せたら、これやろうという話になって実際使いました(笑)。

 もともとアクション映画って、いろいろな他のジャンルの映像とか見ていつも参考にしていますからね。『るろうに剣心』のドリフト走りであるでしょ? あれももともと『ルパン三世 カリオストロの城』のカーチェイスなんですよ。

柚木 ルパン?

谷垣 ルパンの車が、丘というか山を斜めに突っ走るシーンを人間でやったらどうかなと思ったのがドリフト走りなんですよ(笑)。でもそれだけでなく、リアリティとしても、例えば野球でヒット打って1塁を回るときにこう斜めに体がなるじゃないですか? スピードスケートでも同じですが、自然の法則なんですよね、スピード出てたら斜めに走るのが。絵空事であってもアクションにおけるリアリティはやはり大事だと思うんですよね。『るろ剣』でいえば、スライディングもすごく剣心っぽいアクションってよく言われるんですが、そういうものが皆さん印象に残っているんですよね。そういう風に、見た人の記憶に残る、フックになるアクションって重要だと思います。

 あと他にも面白いエピソードあるんですが言えないものが多くて(笑)。

柚木 そうか(笑)。あとでこそっと教えてください(笑)。

 ところで谷垣さんの今後の活動は?

谷垣 そうですね、さっきも言いましたが呼ばれれば香港でも中国でもアメリカでも日本でもタイでも、フットワーク軽くやりたいです。あと、韓国映画とインド映画はやったことないんで一度やってみたいです。

 自分の身一つでどこでも行けてしまうのが僕の特技でもあって(笑)、あれ? これ昔、柚木さんにも言ったし、自分の本でも書いてたかな(笑)?

柚木 でもそれが実行できちゃってるのがすごいです。

 

谷垣さんを探せ!

谷垣 あ、これ言い忘れてました。面白いエピソードかどうか分かりませんが、僕が『シャクラ』本編に出てたの柚木さん気が付きましたか?

柚木 え? 全然気が付かなかった!

谷垣 では、この記事の読者さんには楽しみに僕を見つけていただければ(笑)。

柚木 もうひとつおまけに、谷垣さん、突然ですが座右の銘は?

谷垣 そうですね、やっぱり「Don't think, Feel.」ですかね(笑)。

柚木 本日は長い時間お話しいただきありがとうございました。

キャスト・スタッフ一同との記念写真。後列の赤いTシャツ姿が谷垣健治さん。前列の真ん中がバリー・ウォン。左にユエン・チョンヤン、右にドニー、その隣がクララ(カラ)・ワイ。後列には慕容復役のウー・ユエや他のキャストたちも。
見ているとハッピーな気分になるお宝写真だ。提供・谷垣健治氏

谷垣健治(プロフィール)

1970年10月13日生まれ。奈良県出身。1989年に倉田アクションクラブに入り、1993年単身香港に渡る。香港スタントマン協会(香港動作特技演員公會)のメンバーとなり、ドニー・イェンの作品をはじめとする香港映画にスタントマンとして多数参加。2001年に香港映画『金魚のしずく』でアクション監督デビュー。その後、アクション監督として日本映画『るろうに剣心』(12)、『るろうに剣心 京都大火編』(14)、『るろうに剣心 伝説の最期編』(14)等を手掛けた。『邪不圧正』(18・未)において日本人として初めて台湾の第55回金馬奨最優秀アクション監督賞を受賞。近年では『レイジング・ファイア』(21)、『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』(21)、『るろうに剣心 最終章The Beginning/The Final』(21)などのアクション監督を担当し、世界的に活躍している。

 

『シャクラ』

製作・監督・主演:ドニー・イェン

製作 バリー・ウォン

アクション監督:谷垣健治

出演:チェン・ユーチー、リウ・ヤースー、ウー・ユエ、チョン・シウファイ

2023年/香港・中国/広東語/130分/シネスコ/5.1ch/原題:天龍八部之喬峰傳/日本語字幕:小木曽三希子

提供:ツイン、Hulu  配給:ツイン

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柚木 浩(コミック編集者/映画ライター)
『香港電影城』シリーズの元編集者&ライター。
香港映画愛好歴は、『Mr.Boo!』シリーズを日本公開時に劇場で見て以来。
火が点いたのは『男たちの挽歌』『誰かがあなたを愛してる』『大丈夫日記』『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』あたりから。
好きな香港映画は1980年代後半~90年代前半に集中しているが、2000年以降のジョニー・トー作品は別格。邦画、洋画、韓国映画、台湾映画も見る。ドラマは中国時代劇、韓国サスペンス系。好きな女優、チェリー・チェン。