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『シャクラ』公開記念!アクション監督谷垣健治氏スペシャルインタビュー①

2024年1月5日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

  2024年正月、香港映画『シャクラ』がついに公開される。

  ドニー・イェン(甄子丹)の代表作になること必定のアクション超大作である。

  これは絶対に映画館で見るべき映画だ!

  原作は武侠小説に詳しい方なら、香港の柴田錬三郎というか山田風太郎というか、まあ日本の作家を例に出さなくてもいいのだが、奇想天外、血沸き肉躍る武侠小説の大家・金庸の代表作「天龍八部」である。

 大河小説「天龍八部」の映画化は製作・監督・主演を務めたドニー・イェンの宿願でもあり、なかでも主人公の一人、喬峯を演じるのが夢だったというだけあって、冒頭から中盤の大バトルを経て、あっと驚くラストまで息をつかせぬアクション巨編である。

 私(柚木浩)の超個人的感想だが、『シャクラ』はドニー監督・主演『ドラゴン危機一発‘97』を見た時の異様な緊迫感とスピード感とボルテージの高い超絶アクションの興奮を想起させる傑作だ(もちろん『イップ・マン』シリーズも『導火線FLASH POINT』も『孫文の義士団』も『SPL/狼よ静かに眠れ』も大好きだが)。

 さて、今回はポスターの惹句に「ドニー・イェンX谷垣健治」とあるように、世界で活躍する『るろうに剣心』のアクション監督谷垣健治さんがドニー・イェンとがっぷり四つに組んだアクション映画である。もうこれは期待しないほうがおかしい。

本インタビューでは、ドニーと四半世紀にわたって強力なタッグを組んできた谷垣健治さんならではの意見、手ごたえ、裏話などを語ってもらった。  (文責・柚木浩)

『シャクラ』

製作・監督・主演:ドニー・イェン

製作 バリー・ウォン

アクション監督:谷垣健治

出演:チェン・ユーチー、リウ・ヤースー、ウー・ユエ、チョン・シウファイ

2023年/香港・中国/広東語/130分/シネスコ/5.1ch/原題:天龍八部之喬峰傳/日本語字幕:小木曽三希子

提供:ツイン、Hulu  配給:ツイン

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『シャクラ』現場モニター前でのアクション監督谷垣健治さん。写真提供・谷垣健治氏

ドニー・イェンと綿密に打ち合わせする谷垣健治さん。写真提供・谷垣健治氏

「『るろうに剣心』のアクション監督やった男が

武侠ものをやるって面白いだろ!?」(byドニー)

柚木 まずは『シャクラ』に谷垣さんが関わるきっかけは? これは野暮な質問でドニーとの絆だからだとは思いますが(笑)。

谷垣 (笑)。そうではありますが、ドニーから声が掛かったときは前の作品(『九龍城寨(未)』)に取り組んでる最中でめちゃ疲れていて、この後は少し休みたかったんですが、疲れすぎてボーっとしていつの間にか引き受けちゃったんですよね(笑)。

 実はアクション監督としては武侠ものはやったことなくて、ほとんどが現代ものだから自分には無理じゃないかと、最初は答えたんですよ。ドニーのチームにはアンディ・ヤン(厳華)というアクション監督がもう一人いて、彼がやればいいんじゃないかと言ったら、ドニーから「俺はそもそも普通の武侠ものにする気はない」と言われちゃって。

柚木 え? そうなんですか!

谷垣 ドニーは「『るろうに剣心』のアクション監督やった男が武侠ものをやるって面白いだろ!?」って言ったんですよ(笑)。僕ももともと『るろ剣』でも(旧来の)時代劇アクションを撮るつもりはなく、現代アクションを撮るつもりで取り組んだので、なるほどそうかと思い直しまして、このドニーの一言でやってみるかという気になりました。

柚木 『シャクラ』に参加するにあたって、どんな準備をされましたか?

谷垣 まずドニーから、金庸の原作の1巻から4巻まで読めば今回の話はだいたいわかるからと言われて4巻まで読みました。

 2022年5月当時の中国は、コロナの隔離が中国入国後3週間も義務付けられていて、日本とは違って文字通りホテルの部屋のドアから3週間一歩も出られなかったので、まさに監獄にいる感じでした(笑)。でもそのおかげで時間はたっぷりあった。

 原作を原作を読んだ感想としては、すごく面白いんだけど、とにかく長いし、登場人物も多くて、これはTVドラマ向けだなとの印象を受けました。TVドラマで40話くらいでやるような話だなと。

 もともと、<明報>という新聞の連載ですからね。社長(金庸)が自分で書いて毎日毎日、読者を楽しませようとしてるから、短いスパンでの盛り上がりはたくさんあり、まさにTVドラマ向けの作りになってる。それを映画にするにはどうしたらいいのかと思って読みました。

柚木 僕は最近のTVドラマ(『天龍八部 レジェンド・オブ・ディスティニー』)しか見ていないですが、喬峯のほかに段誉、虚竹、慕容復とメインの主人公だけでも4人もいます。今回、喬峯のエピソードを描くというのは決まってたんですが?

谷垣 それは決まってました。しかし喬峯の人生のどこをクローズアップするのか、段誉とか虚竹とどう絡ませるか、話をまとめるのは結構大変だなと思いました。でも、僕以外みんな香港人、中国人なわけだし、彼らはみんなTVや小説とかでよく知ってる世界なんですよね。なのでそこは彼らに任せておけば大丈夫かなと(笑)。

柚木 原作や過去のTV作品などを見て、今回はどんなアプローチが浮かびましたか?

谷垣 そうですね、例えば日本の時代劇だとまず所作から入るじゃないですか、しきたりとか作法とかいろいろあって。でも12世紀が舞台の武侠ものですからね、それが自由というか、実は遊べる余白がたくさんあるなと思いました。アイデア次第でいろいろやれるなと。

 参考までに過去のドラマをいろんなバージョンで見ましたが、面白いなと思うところもあれば、これは絶対にやってはいけないと思うところもあったりして、興味深かったですね。日本の時代劇の窮屈さとは全く違う。いずれにしても、過去作品をトレースするというよりも、僕らなりの、いつものドニー・イェン流アクションのアプローチでいいんではないかと思いました。

『シャクラ』はマーベルのヒーロー映画を

撮るつもりで作った

柚木 見どころのひとつに、中盤あたりでドニーが阿朱(ヒロインの一人)を救出するため、かつての仲間や腕っぷしの強い猛者たち100人(目分量です)を相手に聚賢荘で大立ち回りを演じるものすごいアクションシーンがありますね!

谷垣 あのシーンで一番有名なのは2003年の『天龍八部』(TVシリーズ)ですよね。これは一応何回も繰り返し見てましたが、それは我々がこれとはまったく違うアクションにしなければという意識があったからです。

猛者100人との死闘!!! アクション映画史上屈指の名場面だ!

喬峯に扮するドニー・イェンの「気(パワー)」はこの写真見ててもすごい!

 まあ、でも主演がドニーなんでね(笑)、ドニーが芝居してアクションすれば、もう誰とも違う、過去に誰もやったことのないアクションシーンになるのは間違いないんで、逆にアクションをどう工夫すれば視覚的により面白くなるのかということに集中しました。

柚木 ドニーが演じるとなんだろう、感情移入してしまうんですよね。あんな途方もない敵たちと戦って、生きて帰れるのかとか、いや無理だろうとか、もう心臓バクバクでした(笑)。奇想天外なんだけど、アクションにリアリティみたいのを感じました。

谷垣 武侠ものっていうときに一番良くないのは、誰が演じてもスーパーヒーローになれるってところですよね。飛んだり跳ねたりして、特殊効果で指から光線がビビビと出たり(笑)。隔離期間中にホテルでずっと中国の武侠ドラマを見ていて、気功を使ってビームみたいなのが出るのはいいんだけど、問題はその指の先端からCGのビームが乗っかってるだけで、その役者の内から出てるように見えないことだなあとぼんやり考えてました。

 もちろん我々も武侠ものを作る以上、ワイヤーで屋根に飛び乗って走ったりするシーンは必要なのですが、例えば跳ぶときにも、寄りのカメラで足元でバン!と地面を蹴って砂埃を上げて跳ぶところを撮り、力点、支点、作用点でいうと、力点をちゃんと見せることで作用点を迫力あるように感じさせる工夫をしています。これがアクションシーンでの僕らなりの物理的な理屈で、もちろん普段よりもオーバーには表現していますが、「あ、だから彼は跳べたんだ」「だから彼の蹴りはすごいんだ」と見てる人に感じてもらいたいと思って撮影してました。

柚木 そこらへんはすごく見ていて感じました。重量を感じるアクションといいますか。

谷垣 パワーですよね。香港映画ならではの武侠ものでありながら、僕ら的にはマーベル映画を撮るような感じで武侠ヒーロー映画を撮ったという感じがします。『キャプテンアメリカ』のようなパワーであるとか、スーパーヒーローぶりだとかを目指した部分が結構ありました。

『シャクラ』キャストのアクションについて

柚木 本作品でドニー以外の俳優さんで印象に残った方はいますか?

谷垣 やっぱりチョイ・シウミン(徐小明)ですかね。オープニングに出てきたあのラマ僧みたいな恰好をした武術の達人です。彼は日本だと『天山回廊 ザ・シルクロード』の監督・主演で有名ですが、僕はあの映画が大好きなんですよ。彼のようなベテランと仕事できたのが嬉しかったですね。

 あと、こちらもベテランで、以前自分の本では「おっかない人」(笑)と書いたクララ(カラ)・ワイ(惠英紅)とまた仕事できたのも楽しかったです。

柚木 今回もおっかなかったですか(笑)?

谷垣 あれから20年とか経って久しぶりに会ったらとっても優しくなってました(笑)。優しすぎて逆に怖かったくらいで(笑)。

柚木 今回は貫禄あるお母さん役でしたね。

谷垣 アクション女優から、アクションも芝居もできる女優というポジションにシフトできているのですごいですね、彼女は。アクションに逃げないというか、きちんと演技で勝負できるというのがね。クララ・ワイは最初ドニーからのオファーでは今回はアクションはないからと言ってたのにとボヤいてました(笑)。「私もう無理よ」と言いながらちゃんとアクションやってくれましたけど(笑)。

左が阮星竹役のクララ(カラ)・ワイ(惠英紅)。右は段正淳役のチョン・シウファイ(兆輝)。

柚木 ヒロインのふたりの女性はいかがでしたか?

谷垣 阿朱役のチェン・ユーチー(陳鈺琪)はアクションはほとんどないのですが、性格とか把握しておいてと言われたので、1日だけめちゃくちゃ厳しい練習をやらせたんですが(笑)、それもきちんと彼女はクリアできてたんで、根性はすごくある人でした。彼女は真面目なんですよね、とにかく繊細というか、テストでドニーにOKと言われてもずっと悩んでいるタイプですね。役柄に近い感じです。

 対照的なのは阿紫役のリウ・ヤースー(劉雅瑟)で、役柄の通り奔放、とにかく自由な人です。昨年香港アカデミー賞を取った有望な女優さんですが、とにかくアクションは勢いでやる(笑)。バババーとアクションして「私、どう?」とドヤ顔するタイプの人です(笑)。

 

②に続く  『シャクラ』公開記念! アクション監督谷垣健治氏スペシャルインタビュー② - エンタメパレス (en-pare.com)

 

阿朱役チェン・ユーチー(陳鈺琪)は薄幸な感じの美人さん。

阿紫役リウ・ヤースー(劉雅瑟)は喬峯と共に闘う!

■ヒロインのキャラクターポスター(おまけ)

キャラクターポスター 阿紫はクライマックスで大活躍!

キャラクターポスター 阿朱も雄姿を見せてくれる。


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