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香港映画祭2023 Making Wavesオープニングと 話題作『風再起時』監督、脚本家のQ&Aレポート

 昨年、連日満員御礼の大盛況となった「香港映画祭 Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」が今年も開幕。11月5日(日)までYEBISU GARDEN CINEMAにて開催されます。

 初日のオープニングには上映作品全7作に関わったゲストが劇場の後方から現れて、観客席の通路を通り舞台上にずらり登壇。大きな拍手と歓声で迎えられました。

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左から レモン・リム (香港国際映画祭イベント・マーケティングディレクター) マニ・マン(「7月に帰る」 プロデューサー)スン・フェイ(「風再起時」 脚本)フィリップ・ユン(「風再起時」監督)ソイ・チェン(「マッド・フェイト」 監督)ラム・カートン(「マッド・フェイト」主演) ダヨ・ウォン(毒舌弁護人」主演) ジャック・ン(「毒舌弁護人」監督) グラディス・リー(「ブルー・ムーン」主演)アンディ・ロー(「ブルー・ムーン」 監督)ウィンサム・アウ (香港特別行政区政府 駐東京経済貿易代表部 首席代表)レオ・ツェー (香港特別行政区政府 駐東京経済貿易代表部 次席代表)

 注目を集めたのは昨年に続いて登壇の『マッド・フェイト』主演の実力派ラム・カートンは
「こんばんは。(日本語で)また、お会いすることができてとてもうれしいです。監督が作品の中でどれだけ大スターの僕を演出しているのか、ぜひ確かめてみてください(笑)」とジョーク混じりにコメント。

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 正義が失われた香港の法廷で戦うヒーロー弁護士を描き、香港映画歴代興行収入1位を記録した『毒舌弁護人』主演のダヨ・ウォンは日本語で「私は毒舌弁護人です」と自己紹介して会場からは「おー!」と驚きの声が上がるなど、華やかなオープニングとなった。

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その後、今回が日本初公開となる新作映画『風再起時』(2022)を上映
 本作は香港を代表する大スター、アーロン・クォックとトニー・レオンの初共演が大きな話題となり2022年度アカデミー賞国際長編映画賞部門の香港代表作品に選出されたクライム・サスペンスだ。

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 1960〜70年代、汚職が横行していた暗黒時代の香港を舞台に、実在した汚職警察官を描き、トニー・レオンが2023年アジア・フィルム・アワード最優秀主演男優賞を受賞し、『Mr.Boo!ミスター・ブー 』シリーズで知られるベテラン俳優マイケル・ホイが2023年香港電影金像奨最優秀助演男優賞を受賞したことでも話題を集めた。

 アーロン演じるリー・ロックとトニー演じるナム・コンの生涯を香港の歴史を背景に描く一大叙事詩。 率直で純粋なルイと思慮深いコンがなぜ犯罪の闇に落ちたのか、香港の根深い汚職文化、抗日戦争、黒社会との関わり、さらに恋愛、結婚、妻との関係までが展開される。

 互いに信頼し支え合うふたりの関係にはブロマンスの要素も感じられ、トニーの弾くピアノでアーロンがタップダンスを踊るシーンやミュージカルの名作のオマージュ場面もあり、ノワールサスペンスだけに終わらない見どころたっぷりの作品だ。

 

上映後のQ&Aには、監督フィリップ・ユン(右)と脚本家スン・フェイが登壇した

 ユン監督「私は来日するのは3度目です。皆さんと一緒に映画を観ることができて大変嬉しいです。香港は私が生まれ育った街なのですが、この作品には私の香港への気持や感情が込められている映画です」
フェイ脚本家「私も来日が3度目なんですが、この作品を私は200回以上も見ているんですが皆さんがこの映画を決めて下さるととても嬉しいです」

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 続いての観客からの質問に答えるQ&Aコーナーでは、多くの観客から要望があった最初の質問、
「初共演のトニーレオンとアンディ・ラウの撮影秘話があったら教えてください」に、
ユン監督「実はトニーとアーロンはテレビドラマでは共演したことはあるんです。皆さんもご存知のように、この2人は香港映画の中で本当にたくさんの作品に出演しています。トニーはウォン・カーワァイ、ホウ・シャオシェン、アン・リー監督などアートムービーの世界で素晴らしい演技を見せ、たくさんの賞も受賞しています。かたやアーロンは最初はアイドル的な存在からいろいろな役を演じることで、近年、非常に俳優として実力発揮しています。
 アーロンとは、以前一緒に仕事をしていましたが、非常に情熱的で周りに影響与えることができる人なんです。一方、トニーは物静かな人で現場ではあまりしゃべらないんです。そんな対照的なキャラクターなので面白いエピソードと言うのは正直ありません。でも、ふたりともプロフェッショナルな役者なのでお互い作品について話し合うときは、とても楽しそうな雰囲気でした。

 この2人と仕事をして、アーロンは昼型、トニーは夜型だと感じました。昼型のアーロンは現場では私よりも要求が高くてもう一度撮ってくれと言ってくるんです。逆にトニーは撮影の時はほとんど何もしゃべらない。ところが夜になると私のところにバンバンショートメッセージが来るんです。今日撮ったシーンはどうでした?明日はどうすればいいんですか?もう少し父親との関係を話してほしいとか。終わったあとトニーと作品についてテキストでやりとりをしていました」とタイプの違うふたりとのロケの裏話を語った。

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「『Mr.Boo!ミスター・ブー』シリーズで有名なマイケル・ホイを出演させた理由は?」の質問には、
ユン監督「マイケルは、私が小さい時からずっと彼の映画を見てきて私のアイドルそのものなんです。当時、彼の映画の興行成績はいつもトップレベル。彼は70年代の香港を代表するような存在で香港人の持っている価値観そのものを代表している。父親に連れられて映画を見に行ってとても楽しかった。彼に対しては親しみを感じるのです。
 マイケル・ホイとは役柄について話しあったのですが、作品や役柄についてしっかりした考えを持っている。また英語での独白シーンでは、実はマイケルは俳優になる前は英語の先生だったので文法にうるさくて、英語の台詞にアドバイスをくれました。また、当時の警官や公務員の口ぐせや喋り方などを研究していて、彼と仕事をできて本当に嬉しかった。彼はこの役にぴったりの役者でした。一緒に来日したかった。
 この作品は、すべての香港映画ファンに対してある種プレゼントの気持ちでつくりました。だからマイケルが登場しないとダメですよね。例えば、日本映画を撮るときには、私はおそらく竹中直人を起用することになると思います」

フェイ脚本家は、
「撮影を見学したときに、マイケル先輩の台詞が脚本と微妙に違っていると心配したのですが、撮影が進むうちにマイケル先輩の発する台詞は実際には脚本と大きく変わりませんが、さらに面白く、話しやすく、キャラクターにしっくりくる表現になっていると発見しました」と名優の演技を語りました。

 

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 最後の質問は、「汚職がはびこっていた香港の“暗黒時代”の物語は、アンディ・ラウ主演作『リー・ロック伝』などでもよく知られるが、なぜ今映画化したのか」
ユン監督は「それらをテーマにした映画は私の学生時代に撮られた作品。その映画や両親の話を通して香港の当時を知ってきました。ただ私が生まれて育ってきた香港と今の香港の間には大きな変化がある。今回映画を撮るにあたって、1940年代以降の香港の風景や人物を残したい、忘れてはならないという気持ちがあり、香港に対する情感を表現したいと思いました。
 ここ10数年の間に“香港は死んだ”という人がたくさんいるが、私はそう思わない。私たちは歴史を振り返り、これからの香港のために何ができるか考える必要がある」と、きっぱり発言。
 フェイ脚本家は「私自身は生まれも育ちも香港ではありませんが、私も香港に対する深い気持ちを表現したいと思いました。この脚本を書くために香港の歴史を学び、映画を通して実体験できたことは素晴らしい旅のようでした」と振り返った。


公式サイト
https://makingwaves.oaff.jp/

11月5日まで開催。チケットはすべて売り切れとなっている。