エンタメパレス

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『さらば、わが愛/覇王別姫』4K版で人気再熱するレスリー・チャンの魅力を対談で考察(パート1)

4K版で蘇った『さらば、わが愛/覇王別姫』(93)『ブエノスアイレス』(97)の上映で主演レスリー・チャンの評価が改めて急上昇しています。そこでエンタメパレスでは長年のファンである島津美穂さん(元写真家)とインタビュー経験のある村上淳子さん(映画ジャーナリスト)に、レスリーの魅力と再熱する理由について語っていただきました。

 

 

 

役柄を徹底的に理解することで訴求力がハンパない

村上 島津さんとは長いお付き合いなのに座談会という形で話すのは初めてで、まずは島津さんとの出会いから。たしか香港の湾仔での野外コンサート取材でしたよね。その後、レスリーの長年のファンで香港芸能の幅広い知識を持っている人だと知っていろいろサポートしてもらうようになった。レスリー関係では『もういちど逢いたくて/星月童話』(99)のロケ取材で八景島シーパラダイスに一緒に行ったのがいい思い出。撮影のときのクールダウンした姿が間近で見れたのも貴重だったし、至近距離で見た艶肌が本当に美しかった。

島津 ほんとに。レスリーが常磐貴子の乗ったジェットコースターを見送る時、手を振りながら「SAYONARA〜♪」と『少女心事』のワンフレーズを口遊んでいるのを聴けたのが最高でした。

村上 改めて聞くけど、レスリーファンになって何年?

島津 36年、推し続けてます。出会いは忘れもしない1987年4月25日渋谷の映画館で「男たちの挽歌』(86)の初日を見たときからです。

村上 す、すごい!年期入ってる!ところで「覇王別姫』4K版が上映されて再びレスリーに注目が集まっているけど、やっぱり「覇王別姫』(93)は別格の作品だと感じる。絶対、あの京劇の女形・蝶衣(ティエイー)役はレスリーありき。彼でなければできなかった。美しさ、妖艶さ、切なさのトリプル表現の最高峰を見せられて、心を揺さぶられまくりだった。

島津 『覇王別姫』のレスリーは誰よりも役になりきっていた。あの役はレスリーに当て書きだったと聞きました。それに応えて北京で北京語をいちから学び、中国人が聞いてもとてもきれいな台詞の発音だったそうです。

村上 今回、4K版になって細部まで鮮やかに映し出されることで蝶衣の繊細な表情から心情がより深く伝わり、フィルムに焼き付けられたレスリーの魂と凄味を感じた。京劇のシーン以外でも指先まで役柄になりきっていた姿に唸りました。

島津 30年の時を経ての4K上映。それこそ、もう何度も観ているのにその都度、感動を与えてくれる。レスリーも蝶衣をいつも全身全霊で役に向き合い演じ切る。また、出会えて嬉しいのに切ない。終劇間際の蝶衣の微笑みは例えようもなく美しく、一瞬その場の空気が清浄になったかのような気がした。この映画に携わった全ての方々に感謝したい。素晴らしい作品を多謝です。

村上 中国ドラマ『君、花海棠の紅にあらず』(20)は『覇王別姫』のオマージュで京劇の女形スターと妻がいる実業家のプロマンス作。ドラマティックで良きストーリーで、女形役イン・ジョンも華麗だったけど妖艶さのオーラはレスリーのほうが強烈だった。

島津 『覇王別姫』はレスリーの没後、20年にふさわしい作品のひとつ。これまでこの作品の存在を知らなかった人にも是非見てほしい。

村上 今回、『覇王別姫』を初めて観てハマる人も多いんじゃないかな。

島津 きっとそうですね。亡くなった後も新たなファンが増える続ける理由は、その作品に引きずり込む引力の凄まじさ。役柄への理解度ががハンパないから、共感させられずにはいられない。訴求力に優れている。20年たって主演作を観ても色褪せず感動させられる。

若く見える容姿でやりたい役ができないジレンマがあった

写真・島津美穂

村上 美しさ、スタイリッシュさも色褪せない。最大限、自分を魅力的に見せるんだけど、たまに力を抜いたとき、わざと露悪的なときもギャップ萌え。コンサートのあと、いきなりシースルのシャツで出てきてもう挑発してるとしか思えなかった。もしレスリーが存命だったら、今65歳。どんな存在になっていたかな。

島津 好きな映画を作ってるんじゃないですか。何かを作り出したい人だから。監督作に出演してほしいとイーキン・チェンに声をかけたという話もありましたし。短編の監督作は香港政府の禁煙キャンペーンのために作られた『煙飛煙滅』(00)がありましたが。

村上 長編作品を観てみたかったよね。

島津 でも、今の香港では規制があってレスリーが望むような作品は撮れないから、香港にはいない気もします。

村上 英語もできるから、留学していたロンドンかハリウッドに移住してたかも。前にトニー・レオンを取材したときに、ハリウッド進出のことを質問したら、向こうの業界のパーティーでは俳優たちが自分のキャリアのPR合戦で「あんな怖いところ嫌だ」と腰が引けてた。でも、自分から行かなくても、向こうからオファーがきて『シャンチー /テン・リングスの伝説』(21)でハリウッドでも高い評価を受けた。俳優デビュー40年にして。だから、レスリーも同じように活躍できたと思う。彼の場合は大作じゃなくミニシアター系で惚れ込んだ作品に主演しそう。そしてLGBTの活動も支援すると思う。

島津 自分の「大切な人」と長年のパートナーのトンさんをコンサートで紹介していますからね。そのあとは手を繋いで歩いたり。はっきりカミングアウトはしなかったけど隠してはいなかった。

村上 レスリーは大胆さとナイーブさの振り幅が広い性格だと感じるんだけど、中華圏の大スターで当時、ゲイであることをずっとオープンに出来なかったことにすごく葛藤があったんじゃないかと思う。もうひとつ、お母さんとずっと離れて暮らしていたことも彼の性格に影響しているように感じるんだけど。

島津 ママのことはわだかまりは溶けてるんじゃないかと。よくコンサートのラストでママの好きな曲、テレサ・テンの『月亮代表我的心』を歌っていたし。長らく葛藤があったのは、容姿と役のギャップ。若く見えるからやりたい役が出来ないジレンマがあった。求められる役と求める役が一致しない。共演する女優がかなり年下で共演したい女優がいてもレスリーの容姿と釣り合わない。

村上 あの美貌が武器にもなりコンプレックスにもなった。

島津 ええ。イケメンでできた役もあるけど、演技力を発揮できる役、年相応の役がもっとあったはずだと思うんです。『白髪魔女伝』でようやく年相応の役をやって、そこから『上海グラント』(96)に繋がる。

村上 『白髪魔女伝』と『覇王別姫』の公開は1993年レスリーが37歳のとき。えー、『金枝玉葉/君さえいれば』(94)は38歳。だけど映画のなかではもっと若く見える。うわー、『ブエノスアイレス』って41歳だったの信じられない。トニーは38歳。ということはイケオジのBLだったんだ。いや、青春な雰囲気だった記憶があったから。たしか『きのう何食べた?』(作・よしながふみ)のシロさんが43歳、ケンジが41歳の設定。テーマは違うとはいえ、レスリーもトニーも年齢を感じさせず愛憎を演じていましたね。

 

パート2はこちらから

https://en-pare.com/entry/2023/08/10/080000

 

島津美穂

元写真家 アジア芸能を主流に活動。香港の新聞「東方日報」「太陽報」で日本芸能の取材、撮影を担当。レスリーの推し歴36年。「最初の10年間はファンとして突っ走った。次の10年間はメディアとして幸運にも取材ができた。続く10年はレスリーのことを伝えるために自分の存在があった。今はレスリーを自分のためにまったり楽しみたい」と語る筋金入りの大ファン。

 

村上淳子

映画ジャーナリスト、海外ドラマ評論家。雑誌『anan』のライターとして活動中に香港エンタメに目覚め「香港電影城」(小学館)シリーズに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。好きな香港俳優はチョウ・ユンファ、レスリー・チャン、トニー・レオン、イーキン・チェン、ニコラス・ツェー。

 

『さらば、わが愛/覇王別姫 4K』

角川シネマ有楽町、109シネマズプレミアム新宿、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次上映。

配給:KADOKAWA

©1993 Tomson(Hong Kong)Films Co.,Ltd.