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名優トニー・レオンとW主演の映画『無名』で ワン・イーボーの色香と迫真アクションが炸裂!

 

 アジア中を席巻したファンタジー時代劇ドラマ「陳情令」(19)で、シャオ・ジャン(肖戦)と繰り広げた熱き"ブロマンス"で多くの女子を沼堕ちさせたワン・イーボー(王一博)が映画初主演の座を掴んだのが『無名』です。

 その情報を知ったときはかなり驚きました。何しろアジアの至宝、影帝として数々の受賞歴があるトニー・レオン(梁朝偉)とのダブル主演。初主演で大先輩との共演で相当プレッシャーもあったと推察できます。トニーの胸を借りてイーボーがどこまで成長できるか?が見どころのひとつと試写を観るまでは思っていました。

 しかし、イーボーの最初の登場シーン、鏡の前で身だしなみを整えるところから、アイドルのイメージを封印した色香とカッコ良さに惹きつけられました。

 第2次世界大戦下の上海で、中国共産党・国民党・日本軍が睨みあい、スパイたちが攻防戦を繰り広げる本作で、イーボーは秘密工作員を演じるのですが、役どころも複雑でストーリーも現在と過去が入り混じり時間が連続しない構成でかなりチャレンジングな作品といえます。

 舞台は1941年上海。汪兆銘政権の政治保衛部のフー(トニー・レオン)は、部下のイエ(ワン・イーボー)と友人のワンと諜報活動を続けていた。フーは、任務に失敗した国民党の女スパイを助け、上海在住の日本人要人リストを手に入れる。だが、第2次世界大戦が激化する中、イエは日本側とも繋がる二重スパイだった…。

 監督は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』(16)を手掛けたチェン・アル(程耳)、本作では脚本と編集も担当。時代的に抗日の要素もあるので、日本人にとっては辛いところもありますが、古き上海の街並みを再現し、凄惨なシーンも光と影を巧みに使った演出で美的に映像化して、独自のスタイリッシュな世界観を生み出しているのです。

 そんなこだわりの強い監督がまだ映画の世界ではキャリアがないイーボーの写真に目をとめ、本人に会ってすぐイエ役に抜擢したのは、よほど役柄のイメージにピッタリだったに違いありません。

 実は撮影のときにイーボーは監督からホテルの部屋に1週間こもることを求められたそう。そんな監督の厳しい監禁(?)が功を奏したようで、日常から切り離されることで、素顔はラップやバイクが大好きな人気スターからクラシカルなダンディさを身につけたイエ役に見事な変貌ぶりを見せてくれました。

 また、本作ではイーボーが日本語の台詞を流暢に話すのですが、撮影中は日本人俳優の森博之に熱心に日本語を教わる様子が公式HPに掲載されました。

チェン・アル監督は、
「ワン・イーボーは非常に勤勉で集中していて、学習能力も高かったです。毎日撮影に集中して、最大級に尽くしていました。それに彼には天賦の語学のセンスがありました」と高く評価しているのです。

 以前、トニーについて寄稿したときに、「トニー・レオンは目で語る」と評しましたが、本作のイーボーも切れ長の瞳で心情を雄弁に語ります。

 加えて後半、撮影に9日間かけたというトニーとの身体を張ったスタントなしの激しい格闘シーンでは、ターミネーターのようなタフネスぶりを発揮。最初はトニーに対して手を出すのは非常に心理的に負担で、アクション指導からアドバイスを受けてやっと挙を出すことができたそう。
 しかし、それを吹っ切り元K-POPグループで鍛えた身体能力の高さで、キレ味鋭い壮絶なアクションを見せ、“ダブル主演”の看板に偽りなしの迫真の演技を見せました。

 去年の11月に行われた、中国映画界最高の賞とされる第36回中国映画金鶏賞にてトニーが主演俳優賞、チェン・アル監督が監督賞と編集賞の3冠受賞に輝きました。監督の期待に応えたイーボーはなんと助演男優賞にノミネートされる快挙。2023年1月に中国で公開され、興行収入約181億円を上回る大ヒットを記録しました。

 『陳情令』では熱い想いを秘め凛とした「静」のキャラクターを演じたイーボーが、『無名』ではクールな佇まいと鬼気迫る激情で「静」と「動」を圧倒的な存在感で表現。さらなる実力派俳優へと駆け上がったターニングポイントとなった本作、ぜひお見逃しなく!

 

『無名』 5月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国順次公開

監督・脚本:程耳(チェン・アル)

出演:梁朝偉(トニー・レオン)、王一博(ワン・イーボー)、周迅(ジョウ・シュン)、黃磊(ホアン・レイ)、大鵬(ダー・ポン)

公式サイト:https://unpfilm.com/mumei

 


村上淳子(むらかみあつこ)
映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家
雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。