エンタメパレス

映画、海外ドラマ、本を中心に、執筆メンバーの激推し作や貴重な取材裏話など、エンタメ好きの心に刺ささる本音どっさりのの記事をお届けします。

極道×美容師、ハチャメチャだけど純愛まっしぐらの台湾映画『ミス・シャンプー』

 

 昨年秋、第36回東京国際映画祭で上映された台湾映画『ミス・シャンプー』が面白くて、激推ししたかったのですが公開未定で残念に思っていたところ、なんとNetflix で公開!多くの人にオススメできるのはほんとに喜ばしい。

 本作は、日本版リメイクも製作された大ヒット作『あの頃、君を追いかけた』(11)のギデンズ・コー監督による最新作ですが、青春の記憶がほろ苦く匂い立つ『あの頃〜』とはうって変わって、ジョークとエロ、バイオレンスのフレイバーを散りばめたラブコメです。

もちろんヤクザが主人公だから黒社会の流血抗争シーンはあるのですが、残酷ななかにもブラックユーモアがあり、心の柔らかい人でも大丈夫。

 

◇ストーリー
ある嵐の夜、ヤクザの男・タイは謎の刺客にボスを殺され、自らも命を狙われため町のヘアサロンに逃げ込む。美容師見習いのフェンに匿われて難を逃れたタイは、命の恩人となった彼女に一目惚れ。舎弟の男たちを連れ、今度は客としてサロンを訪れ口説き落とそうとするのだがフェンは困惑。
 しかし、ふたりはしだいに惹かれ合うが普通の家庭で育ったフェンに対し、黒社会で生きるタイは殺されたボスの後継者として黒幕を突き止めねばならなかった。恋と裏社会の陰謀が絡み合うなかで、果たしてふたりの恋の行方は?

 

f:id:manareax:20240131231549j:image

 フェンにひと目ボレしたタイはなんとか気を引こうと何度もヘアサロンに通います。シャンプーしかさせてもらえない彼女の練習台になり、おかしな髪にカットされても文句も言わず通い続け、それだけでなく舎弟も練習台にさせ、果ては強引に客引きをしてまでフェンの役に立とうとするのです。

 心が通じあった後、タイはフェンの家で家族にと食事をするのですが、ヤクザとごく普通の家庭の価値観の違いが笑いを誘います。

 ヤクザのタイ役は、台湾の人気ヒップホップユニット「玖壹壹(ナインワンワン)」のダニエル・ホン。長編映画初主演とは思えない演技力で、金馬奨(台湾のアカデミー賞)の新人男優賞にノミネートされました。
 
 東京国際映画祭のティーチインで監督はキャスティングの決め手について、
「彼にはどこか野獣めいた独特の気質がある。話し方や人間そのものに魅力があって、たとえヤクザのような喋り方をさせても愛嬌があり可愛らしいのです」
と、ダニエル自身の人柄が役にぴったりだったと語りました。
 その狙いどおりタイのワイルドでおバカでちょっと下品なキャラクターが、ダニエルの演技で生き生き際立っているのです。

 ヒロインの美容師見習いのフェンを演じたのは、ギデンズ・コー監督の前作で大ヒットした『赤い糸 輪廻のひみつ』にも主演した人気女優ビビアン・ソン。監督が原作、脚本を担当した映画『カフェ・ウェイティング・ラブ』でデビュー以来、ラブコメに主演することが多いビビアンが、本作では下ネタも軽やかにこなして、はつらつとしたキュートな魅力を振り撒きました。

 ふたりのキャスティングがまさに秀逸。躍動感あふれる演技バトルに自然に広角が上がります。

「この映画で撮りたかったのは、どんなに暴力的な男でもどんなにみっともない男でも、恋に落ちてしまえば男の子のようにすごく優しくなるということ。この映画は、私自身の愛に対する憧れの表れなんじゃないかと思っています」
と、監督は本作に込めた想いを語りました。

 ハードボイルドの世界がポップでコミカルな脚本と溶け合い、強面のヤクザでも本気で好きになると、とにかくどんなことでも彼女を喜ばせたいと必死になる。そんな恋愛の本質を描いた本作、新年早々の能登半島地震やいまだ世界で続く戦禍でともすれば沈みがちな日々にこそ、攻めたラブコメで気分アップです。

 

作品情報
『シャンプー・ガール』(Netflix で配信中)
・監督:ギデンズ・コー
・出演:ダニエル・ホン、ビビアン・ソン、クー・チェンドン
・製作年:2023年
・製作国:台湾
・上映時間:120分

 

村上淳子(むらかみあつこ)
映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家
雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。