エンタメパレス

映画、海外ドラマ、本を中心に、執筆メンバーの激推し作や貴重な取材裏話など、エンタメ好きの心に刺ささる本音どっさりのの記事をお届けします。

ボクの出TOKYO記① イーロン・マスク氏に感謝の地方移住顛末

「もっと空が見たかったから・・・」

 なんてセリフから始めると、追憶型感動映画のようでキザなことこの上ないですが、正直、東京生活が年々窮屈に感じられていたのは確か。

並び立つマンションに仰角が削られ、かつての『パネルクイズ アタック25』よろしく、空の見える範囲に余計な制限がかかっている。当然、日照時間も短くなるわけで、冬は夕方四時も過ぎれば薄暗くなってくる。

大抵の都民は山も海も見えないのが日常。タワマン生活に縁のない身にとって、満天の星空とは言わないまでも、ただ日の出、日没を体感したかったというのは、正直なところ。

アジア好きは日照時間のせい!?

 思えばマレーシア、インドネシア、ラオス、タイなど、日照たっぷりというか、十分すぎる国に愛着が深い。アジア好きなのは、そんな理由もあるのかもしれない。

台湾でも台北より南方、あるいは東側が空が開けているし、時間の進み方もゆっくりで心地いい。

ジョシー・ホー(何超儀)主演『ドリーム・ホーム』のような、高層マンションへのアレな野望はない。そんなわけで、ゆくゆくは東京以外の地方都市、できれば海沿いのエリアに生活拠点を構えたいとは考え続けていた。とはいえ、ライター生活で取材に基づく執筆は欠かせない。また、映画関連では試写室は都心に集中。CDや書籍など資料の入手も東京に勝る都市はない。当面、移住は夢のまた夢かとあきらめに近い先送りが続く。

が、しかし。世の中何があるかは分からないもの。まさか、コロナ禍で移動の自由がこれほど制限されるとは思いもしなかった。そうこうするうち、ありがたくは無いが映画公開前に監督や俳優のプロモーション来日も途絶え、国内取材も含めて激減。試写も一時は見送られ、オンラインによる視聴という道が用意された。コロナとは関係ないが、コンテンツに触れる機会もネット中心になり、通販利用も全国的にさらに進んだ。

東京に住んでなくてもいい時代到来!

 災い転じてなんとやら。これって、東京住みでなくてもいいんじゃね?

あきらめるところは潔く切り捨て、ダメ元で一度住む場所を変えてみるのも手ではないか。メディアが後押しする移住ブームとやらにはかなり警戒心を持ってきたものの、試してみて、無理なら再度東京へ戻ることもアリだ。

東京在住のままでは、これまで収集したカセット、CD、DVDの有効活用もままならない。地方暮らしなら、スペース的にも大幅に改善される。買っただけで、積ン読状態の書籍、各国の辞書も整理整頓すれば、多少有効活用できるだろう。

 思考のベクトルがそちら方向へ向かえば話は早い。気候、価格、そして親類との付き合いなども考えて近畿、中国、四国の瀬戸内海沿岸あたりに的を絞り、適当な括りで、いざ不動産サイトでの物件探しが始まった。

賃貸か? 一軒家取得か? 新築は予算的に厳しい。中古であれば、古民家リフォームという案もある(最終的に、寒い古民家は却下)。

「中古」「海が見える」といったキーワードを並べ、数ヶ月探すが、なかなか気に入る物件がない。なかには、バブル期開発の離島の山頂大豪邸が爆安価格で売り出されていたが、アマゾン配達エリア外、クルマで島外へ出ることがまず不可能、スーパーはおろか店一軒もない、浄化槽の管理に多大な費用がかかる。といった見落としがちなデメリットもあった。また、気になる物件はあっという間に先約が入る。海外からの購買も増えているし、ライバルは意外に多い。

いい物件、ついに発見!

 暗中模索、試行錯誤を繰り返しつつ、探すこと半年。何となく気になる中古家屋を発見、正確な住所、間取りが記載されていなかったので競争相手も少なく、都合よく内見予約に漕ぎ着けることができた。

和歌山県から広島県まで見渡したが、結局灯台下暗しというか、気になった物件は小学生以来高校卒業まで暮らした岡山県内。ただし、実家からは結構離れており、移住に近い感覚でもある。乗りかけた船という勢いで、あとは何とかなった。いや、何とかした。

とにかく厄介だったのは、荷物整理、荷造りである。

40年以上暮らした東京生活で蓄積されたコレクション。タイ映画『ハッピー・オールド・イヤー』のように断捨離に四苦八苦しながら、青息吐息で引っ越しの段取りも整えた。

ネット問題勃発!

 苦労したのは内見でしか見たことのない新居の準備。コンロ台の寸法が不明といった問題山積の中、最大の課題はライターの生命線であるインターネットの敷設だ。地方暮らしの方には苦労されてきた例も多いと思いますが、まず光回線が来ていない(泣)。5Gも未来の夢物語。引っ越し前に郵便番号で確認できる光回線や5Gエリアを見て愕然。地域再生などと言ってはいるが、採算が取れない過疎地はDOCOMO、じゃなくてどこも惨憺たるレベル。もはや八方塞がりで、評判のあまりよろしくないホームWi-Fiルーターしか打つ手はないのか。しかも、5Gじゃなくて4Gエリア(一度、夕刻に3Gを体験)だから、満足いくネット環境が望めないのは明らか。万事休すである。

なんとイーロン・マスクさん(の会社)に

助けられた!

 が、ひとすじの光を照らしてくれたのは、ウクライナ軍も恩恵を受けている米スターリンク社の衛星利用サービスだった。

通販番組のやらせっぽくなってしまうが、これしか打開策が無かったのだ。何かと話題のイーロン・マスク先生が進める事業で、日本でも事業展開しているので、これに乗っかったわけである。

初期投資として小型衛星通信アンテナとルータ・セットの購入が必要(申請した2023年5月時点で期間限定価格36500円)。月々の利用料は光回線よりやや高めだが(2023年時点で6600円)、選択肢はこれしかない

幸い、前は海、後ろは山という田園地帯で、必須条件とされる上空に遮蔽物のない立地ではある。契約は東京で本社サイトにアクセスし、ネット申請。アンテナ等はアメリカから発送、配達までに二週間程度かかるという注意書きがあったのでスケジュールに合わせて注文すると、テキパキと航空便で数日後に到着しており、無人の新居郵便受けに不在票の山が(汗)。

引っ越し当日かなり焦ったが、再再再くらいの配達員に詫びつつ無事受領。Xの文字が入るダークグレーの箱を開けると、中に一式と極めて簡素な説明書が入っていた。

まず、スマホに公式アプリを落とし、アンテナを物置の屋根部分に固定、そのまま回線を物干し伝いに這わせて屋内に引き込み、ルータに接続する。あとは配達された箱に貼られたシールのバーコードをスマホで読み取ってサービス利用開始。

のはずが、輸送段階で箱の表面に貼られたシールが汚れておりスキャン不可能。アメリカらしい先進性と大雑把の波状攻撃に苦笑いしつつ、問題をメールでやりとりしながら解決。と、おぉー、つながったではないか。

 イーロン・マスク先生、ありがとう。ツイッターの仕様変更等への不満は水に流します。かくして、インターネット開通。東京では光回線でも週末などは速度落ちが激しかったが、一日に一度程度の軌道衛星バトンタッチ (数秒)を除き、サービスに不満はほとんど無い。後に、ひとつ大きな問題が生じたが、これまた思わぬ福をもたらすから、人生は面白いもの。

 大問題発生! 

試写が見れないのか!?

 その問題。映画のオンライン試写では配給会社によってさまざまなリンクが用意されているが、中に安全対策で日本のサーバ以外のアクセスを遮断しているところがあった。門前払いの404である。

スターリンクの場合、本社サーバはアメリカにあり、世界中の利用者は衛星を通して接続しているから、日本の特定サイトから弾かれてしまうのだ。

オンライン試写の利用不可となると、これまた万事休すだが、試写サービス提供側に問い合わせると、VPNを利用してくれとのこと(通信暗号化とともに複数の海外サーバ利用で抜け道を通る・・・乱暴に言えばそれがVPN)。

やむなく、追加で有料のVPNサービスに加入(月数百円の出費)。これで問題なくオンライン試写の視聴は可能となったが、ここで大いなる余録があることに気づく。

まさかこんな余禄が!

「全民造神」も見られる

 以前から日本からの接続を遮断され、海外のコンテンツが視聴不可さとされ数々の悔しい思いをしてきたが、それを大幅に解決できるんじゃないか。

というわけで、さっそく次々と各国のサーバに接続し、その国限定で提供されている動画、ライブ配信を見てみる。可能な場合と、やはり弾かれる場合はあるが、香港のViuTVはとりあえず視聴可能。

ということで、現行放映のCMからニュース、グルメ番組、そして、トップアイドルMIRRORを生んだことでも知られるスカウト番組「全民造神」も見られることとなった。このまま追い出されなければ、次回の電影金像獎中継も時間差なく楽しめる。

まぁ、フツーは海外限定視聴のNetflixなどを漁るのが常道だろうが、これもアジア迷の性かもしれない・・・。

 さて、とりたてて情報のない個人的移住話におつきあい頂き、恐縮至極。また何か面白いネタがあればお届けする機会があるやもしれません。

それでは築50年を過ぎた昭和の木造住宅を整備、不定形で乱発された華人アーティストのCD整理に悩まされつつ、家庭菜園を耕し、趣味のアジトづくりに日々精進するとします。再會。

 

丸目 蔵人(まるめ・くらんど フリーライター)  1961年神戸市生まれ。映画、音楽等エンタメ(とくに、アジア関連)中心に執筆。出版社勤務を経てフリーに。80年代中期、大久保、横浜などで香港、台湾、韓国のビデオ、カセットを入手し始める。1989年夏に北京短期留学の予定が先方の国情でキャンセル。その予算で一ヶ月かけて台湾を一周。以後、タイ、ラオス、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ブルネイなど主にアジア通いが続く。趣味は料理。2023年初夏より岡山県の海浜エリアに移住。