インド映画史上最高の制作費を投入し、2022年インド映画世界興行収入1位を獲得。日本でも大旋風を巻き起こしロングラン上演された『RRR』は、イギリス植民地時代のインドを舞台に、実際には会うことがなかった実在した独立運動のふたりの闘士をモデルに、ビームとラーマの友情と権力への戦いを描いた骨太の超級エンタメ大作です。
昨年のアカデミー賞ではインド映画初、最優秀歌曲賞を受賞 その挿入歌「ナートゥ・ナートゥ」の生パフォーマンスは会場を大いに沸かせました。
本作を宝塚でやると知ったときは、長年宝塚を観てきましたが、まさか、まさか⁈と衝撃を受けました。これまで数々の名作や話題作を舞台化してきた実績はあるけれど、また凄いチャレンジに出たものだと。
あの「ナートゥ」ダンスは宝塚のレベルをもってすれば問題ないものの、見どころのアクションシーン、強靭な独立運動の闘士の戦いがどう表現されるかに関しては期待と心配が半々でした。
と、同時に絶対チケット争奪戦が過熱すると考えるとウンザリ。なにしろ同時に映画のファンも巻き込んでのチケットの取り合いになることは確実。で、その予想どおりあちこちトライしましたが全滅!なんとかライブビューイングを確保し、往復2時間かかる郊外の映画館に遠征するハメになりました。
2月4日宝塚大劇場公演『RRR × TAKA”R”AZUKA ~√Bheem~』『VIOLETOPIA』星組千秋楽を鑑賞。
3時間の映画を上演時間に合わせて1時間半に短縮するのはかなり難しいのではという心配は杞憂に終わりました。
タイトルに「√ビーム」と付けただけあってビーム視点に絞ることで端折ったところはありますが、演出や役柄の登場シーンが多少変わろうが、作品の「核」となる部分はしっかり受け継がれているのです。
映画に登場する本物の虎や馬、バイクや車は出てこないけれど、映画表現と舞台表現の違いを生かした構成&演出で、見どころの線路火災で川に取り残された子供をビームとラーマが救出するシーンやイギリス総督たちとの戦いまでを見事に舞台化。
ダイジェストではなく、作・演出の谷貴矢氏のオリジナルへのリスペクトが感じられる宝塚版です。
『ムービースター』誌より
ビームを演じたのは星組トップスター礼真琴(れいまこと)。妹のように可愛がっていたマッリを英国人に連れ去られた苦悩の表情も、ラーマとのコミカルな演技もにも引き込まれましたが、とりわけ鞭打たれ歌う場面、日本語の歌詞で不屈の精神を定評のある歌唱力で歌い上げ、心に響きました。
ラーマを演じたのは暁千星(あかつきちせい)。原作のラーマ(ラーム・チャラン)の演技をかなり研究したというだけあって、童顔の素顔を隠し軍服姿が凛々しいラーマでした。英国女性ジェニーに好意を持つビームをフォローする優しい兄の顔から、自らの使命のためにビームを裏切る場面の葛藤を繊細に表現していました。
映画より脚長でシュッとしたふたりがシンクロダンスする「ナートゥ」は圧巻!観客の手拍子で劇場全体がひとつになってヒートアップするのはまさに舞台ならでは。
映画のビーム役(NTR Jr)は「足が折れるかと思った」と苦労を語っていましたが、礼真琴は「膝が取れるかと思った」とカーテンコールで苦笑い。
本作を宝塚のなかでも、千秋楽のコールが“パッション"の熱い星組が演じたのは本当に良き。作品との親和性が最高でした。願わくば、ぜひ星組で3時間構成の『RRR』を観たいものです。
※公演情報
宝塚歌劇団・星組公演 東京宝塚劇場 『RRR × TAKA”R”AZUKA ~√Bheem~』『VIOLETOPIA』
2024年2月23日 ~2024年4月6日
チケットはソールドアウト。
4月6日千秋楽にはネット配信、ライブビューイングあり。
村上淳子(むらかみあつこ)
映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家
雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。演劇もストレートプレイからミュージカルまで観劇。御贔屓は宝塚歌劇、劇団⭐︎新感線。