エンタメパレス

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ボクの出TOKYO記②田舎暮らし、植物生活と料理の関係

アジアエンタメの識者であるライター丸目蔵人さんが今年の初夏より岡山県の海浜エリアに移住。いちばんの問題だったネット環境を解決して、次の課題は野菜や果物を育てること。体験エッセイの第二弾を書いていただきました。

ボクの出TOKYO記①はこちらから。

https://en-pare.com/entry/2023/08/26/133000

 

華人と植物

これまで原稿にする機会はまず無かったけれど、植物に興味は持ち続けていて、タイミングが合えば、休日に催される台北の”建国假日花市”に出かけたりもしていた。 

財産を築くイメージと連動する多肉植物ベンケイソウ科クラッスラ属”カネノナルキ”はやはり華人受けするなぁ、などとブラブラしながら確認。

中国語名で翡翠木、店舗では發財樹などと呼ばれている。よく見れば、成長初期に金ピカの穴あき擬似貨幣を何枚も枝に通し(仏塔最上部の相輪のよう)、よりリッチな見た目に飾り立てている鉢もある。

「招財進寶」といった縁起の良い言葉通り、求めよ、さらば与えられん! といった蓄財への意気込みが市場にあふれていて楽しい。

 香港の一般家庭にお邪魔した時も、英名”Kangaroo Pouch”などと呼ばれているツル性植物が窓辺に飾られていた。

ハマグリ大に膨らんだ緑の貯水袋がツルに垂れ下がっている不思議な風体。”青蛙藤””玉荷包”といった中国語名で親しまれている園芸種で、縁起の良い赤い花が咲き、貯水袋が財布にも見えるので、これまた華人好みというわけである。

 

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香港(油麻地)の中華書局で購入した”彩色多肉植物圖鑑”(淑馨出版社)。和名と中国名を比較する愉しみあり

東京時代はベランダー男子

 東京に暮らしていた時は、耐寒性の面でなかなか南方の植物には手を出せなかったが、猫の額のベランダにて手間のかからない多肉植物は育てていた。

碧玉のような鮮やかな色合いの”ハオルシア”や”エケベリア”などは近年中国でも愛好者が増えており、ヒスイは無理でも希少種でなければ数は揃えられるというわけ。

 餃子の由来ともなった王朝時代の貨幣、馬蹄銀。これを連想させる形状のツルナ科リトープス属のメセン(女仙)類も人気があり、当方も育ててみたが、湿気に弱く腐らせてしまった苦い経験がある。空調を備えた温室が必要なくらい生育の難しいところが、逆にその道(沼?)にハマった俳優・滝藤賢一氏のようにマニア心をかきたてるのだろう。

 

雑草生え放題の庭が食材の源だ

 で、取捨選択はしたものの、今回の移住に際し、多肉植物や球根などは東京から運んできた。基本放ったらかしなので、多肉類の鉢は適当に庭の雨がかかりにくい場所に転がしてある。下手に水やりしない過酷な環境のほうが、コンパクトで美しく育つ場合が多いからだ(その加減が難しい)。

ラッキーなのは、前に住んでいた老夫婦が植物好きだったため、庭に金柑の木と、蓮が育つ水鉢があったこと。

水鉢にはメダカもかなり泳いでいる。金柑は中国語で金橘(金桔)とも表記され、とくに広東地域では春節の飾りにも用いられる縁起の良い植物。魚も餘と発音が同じで生活のゆとりと関連づけられるので幸先がいい。

 元来、信仰心皆無で占いの類にもまったく興味は無いのだが、ビジュアル的に目出度いのは気分がいい。来るものは拒まずである。

ちなみに、引っ越して来た時点で雑草生え放題の敷地には紫陽花、トケイソウといった花々のほか、栗、柿、山椒、レモンの木が順次実をつけており、勢力を競いながら、ネギ、青ジソ、ニラも自生していた。

これは買い物難民となりかねない僻地にあって、じつにありがたい食材源。直近のコンビニまで約4km、スーパーまでは10km近くあるので、ちょっとネギを買いに出かけるとはいかない。そこで、農業経験ゼロの身でありながら、必要に迫られてさらなる野菜作りを始めることになった。

 軍手、腕抜き、鎌、剪定ノコ&鋏、シャベル、脚立、火バサミ・・・。当初はクルマが無かったのでネット通販で次々と取り寄せる。うーむ、積もり積もって初期投資にかなり持っていかれるなぁ。

そうこうするうち、道具類が揃ってバッタやアマガエルのお邪魔をしながら、適当な畝作り開始。

 

野菜つくり生活のスタート!

 ホームセンターで買ったバジル、枝豆、茄子、胡瓜、苦瓜、プチトマトのポット苗や種を、見様見真似で植え付け、待つこと数週間。初年度だから連作障害もなく、案外育って収穫可能に。フード・マイレージがゼロの枝豆はとりわけ美味だ。

あいにく胡瓜は不作だったが、近隣の農家もそれは同じだったようで、ビギナーの不手際では無かった。道理でこのところスーパーの胡瓜も高騰していたはずだ。

値段のこなれた苦瓜やオクラは我がポンコツ菜園でも豊作。身をもって市場原理を理解しながら、ほぞを噛みつつ高値の胡瓜を買い物かごへ入れるのであります。

 そこそこの収穫があると、欲は出てくるもの。外食もほぼ絶望の地なので、料理のバリエーションは増やしたい。というわけで、再びホームセンターの園芸コーナーで東南アジア系、とくにタイ料理で使用するスイートバジル、レモングラスなど、野菜の苗を物色する。

海沿いのエリアは比較的冬も気温高めらしく、あちこち散策してみると、巨大なソテツや椰子(フェニックス)も沿道に街路樹として植えてある。

 

バナナの苗やトウガラシを栽培

ベトナム&タイ料理が作れる!

なかには、バナナが自生している場合もあり、農家がパパイヤを育てている例もあった。冬場の霜で枯れる可能性大だが、試しに矮性パパイヤの苗が販売されていたので買って栗の木の並びに植えてみた。

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矮性のパパイヤ。10cmほどの苗木がひと夏で1m以上に生長

 うまく育てば、ベトナム映画『青いパパイヤの香り』よろしく、未成熟な実をサラダの具材や加熱調理に使用するつもり。実が生るまで二年ほどかかるらしいので、今年は我慢である。うまく冬越しさせて、来年はタイ料理の和え物”ソムタム”を楽しみたいと企んでいる。

 じつは我が家の周りにはサワガニも出没しており、”ソムタム”に入れて楽しむ塩漬け蟹の発酵食品”プー”もつくれなくはない。が、さすがにこれは衛生面で自信が持てないのでパスすることにした。”ソムタム・プー”の名称で東北タイ料理店が提供している場合もあるので、勇者は試してみる価値はあるかと思います(結構生臭いので御注意)。

 初年度は簡単に育つトウガラシも何種か栽培。”ベトナムとうがらし””四川とうがらし”の商品名で売られていたポット苗を購入、交雑しないように距離を取って植えてみた。

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ホームセンターで購入した苗を地植え。病害虫もつかず、収穫量もまずまず。3cm弱の激辛唐辛子になります。

 あいにく四川は花付きが悪く、それほど辛くない実が数本できただけだったが、ベトナム勢は小ぶりながらも次々と実を結んだ。おそらく、タイで”プリッキーヌ”(ネズミのフンの意味)と呼ばれる激辛とうがらしではないかと思うが、摘み立ては柑橘系のような香りも漂うので異なる種類かもしれない。

 

エスニック調味料は移住先でも

なんとかなりそう

 吉祥寺在住の頃は大久保や新宿のアジア系ストアーでビリヤニ用調合粉末やミャンマーの紅茶など食材、調味料を調達していたが、さすがに当地岡山の沿海部では入手困難。市街地にあるカルディなどが生命線となっている。

もっとも、スーパーではベトナム語、中国語もよく耳に入り、そうした顧客向けに大瓶の豆板醤からデーツ・ソース、チュニジア料理で使うペースト状調味料ハリッサまで置いてあったりするので、目ぼしいものを鋭意探索中だ。

 魚介類や肉さえ備蓄があれば、グリーン&レッド・カレーから”パッタイ”(焼きそば)、”ヤムウンセン”(春雨サラダ)から”シニガン”(フィリピンの酸味あるスープ)は日常のメニューに。

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Yum Woon Sen 緑豆はるさめに酒蒸ししたエビ、いんげん、小ネギ、プチトマトを和え、出来合いの専用ドレッシングをかけるだけ。ビールとベスト・マッチング。

 ホームベーカリーを利用すれば、中華の”花巻”の生地も容易に発酵させられる。今後はできればトムヤムクンに欠かせない柑橘類のコブミカンやタイの赤いエシャロット”ホムデン”などの栽培にも挑戦したい。

 

瀬戸内海の夕景を

眺めながらの夕飯

 おっと、それより先に秋から冬に向けての畑作り、ブロッコリやカブ、春菊の準備も必要。さらには冬場に行う害虫退治”天地返し”や基本の土つくりなど、課題は山積である。エントリー機種とはいえ、結構な値段の刈り払い機(草刈機)も購入したので(泣)、不要な雑草も随時成敗しなければならない。

雨が降るたびに驚くほど伸びる雑草群

繁殖力がハンパないポーチュラカやムラサキツユクサもアッという間に地を覆うので油断は禁物だ。

とにかく作業てんこもり。何もやっていないようで、田舎暮らしは結構忙しいのである、オホン。えっ、誓って原稿遅滞の言い訳ではありません。

 

さて、墓穴を掘るといけないので移住に関連した植物、料理談義は一旦このあたりで。

赤く染まりゆく瀬戸内海の夕景を眺めながら、夕飯の献立を決定することにします。台湾のフライド・チキン、ジーパイ(鶏排)でガッツリいくか、それとも赤山椒を効かせた炒め物、宮保雞丁でピリッといくか・・・。

 

丸目 蔵人(まるめ・くらんど フリーライター)  1961年神戸市生まれ。映画、音楽等エンタメ(とくに、アジア関連)中心に執筆。出版社勤務を経てフリーに。80年代中期、大久保、横浜などで香港、台湾、韓国のビデオ、カセットを入手し始める。1989年夏に北京短期留学の予定が先方の国情でキャンセル。その予算で一ヶ月かけて台湾を一周。以後、タイ、ラオス、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ブルネイなど主にアジア通いが続く。趣味は料理。2023年初夏より岡山県の海浜エリアに移住。