エンタメパレス

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ツァイ・ミンリャン監督、深田晃司監督の対談で衝撃的だった3つのこと

第35回東京国際映画祭と国際交流基金による共同トークイベント「交流ラウンジ」が10月29日に開催され、深田晃司監督と台湾のツァイ・ミンリャン監督の対談を取材。その中でとりわけ印象的だったことを抜き書きしました。

 台湾を代表する監督のひとりであるツァイ・ミンリャン監督は『愛情万歳』(94)でベネチア国際映画祭の金獅子賞、『河』(97)でカンヌ国際映画祭の銀熊賞に輝きました。深田監督も『淵に立つ』がカンヌ国際映画祭のある視点部門で審査員特別賞を受賞、最新作『LOVE LIFE』がヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門出品と、両監督ともに世界の映画祭で高く評価されているのです。さらに、対談後、深田監督は東京国際映画祭黒澤明賞も授賞しました。

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深田監督(左)とツァイ監督

©️2022TIFF

①ツァイ監督が深田監督作を絶賛!

 対談前にツァイ監督は深田監督作『ほとりの朔子』(13)、『淵に立つ』(16)、『海を駆ける』(18)の3作品を観賞。

ツァイ「どれも本当に素晴らしかったです。深田監督の映画手法、言葉の使い方が私によく似ていると感じました。私はここ数年、劇映画を撮っていなかったのですが、深田監督の作品を見て、また撮りたいという思いが湧いてきました」
深田「想定外のお言葉をいただきとても嬉しいです。若い頃からツァイ監督作を観ているのでその作品や発言を通して、自分も共通することが多いと感じていました。ツァイ監督の作品は初監督作『青春神話』から研ぎ澄まされて、物語を進めるための映像やセリフが消費されていないのが素晴らしいと思います」

 まず、大先輩にも関わらずツァイ監督が事前に3作品をじっくり観て対談に望み、上から目線ではなく深田監督作を真摯に評価したところに誠実さと懐の深さを感じました。また、ツァイ監督にここまで評価される深田監督の才能を改めて実感しました。

 

②自作の上映を確保するために1万枚のチケットを手売りしたツァイ監督

ツァイ「日本には良い観客、良い配給会社があると思います。『河』を配給してくれた会社は「この映画を日本の観客に観せたい」と公開にこぎつけてくれました。日本にはさまざまな作品を観客に観せたいと思っている人たちがいます。台湾にはあまり良い配給会社がないのです。私は以前、自分でチケットを手売りしていました。公開1ヶ月前から俳優と一緒に街に出て、1万枚のチケット売るんです。それを劇場の人に見せて、これだけ売ったので2週間必ず上映してくださいとお願いする。そうしないと私の作品は1日で上映が終わってしまう。ヨーロッパの観客は普段から美術作品に接しているので、様々な映画を見る習慣がある。アジアの観客は商業的な映画を観る習慣しかない。そこで私は美術館と提携して、映画を美術館で上映しようと考えました。観客を美術館から育てていく」

 ツァイ監督ほどの巨匠が、自作のためにチケットを手売りするというのに驚きましたが、現状打開策として美術館で上映するなど新たなチャレンジを実現しているのは凄い。

 

③深田監督は、フランスでは学校の映画の授業で小津監督作を見せることに驚く

深田「フランスでも興収ランキングでは娯楽映画が多くを占めますが、よくわからないけれど外国から来た作品を見てみようと思う層も多い。自分の作品も日本よりフランスの方がお客さんが入っていて、国内の期待値に応えられない一方で、海外配給が決まっていくと悩んでしまいます。フランスは学校で映画の授業で小津安二郎監督作などを観るそうで、そんな取り組みで観客が育っている」

 フランスには映画のための公的機関フランス映画映像センター(CNC)があって韓国にも公的機関の韓国映画振興委員会(KOFIC)があるのですが、日本には存在せずそれもあって日本の映画界の改革が遅れてしまっているそう。

 日本にも映画振興の機関を作る働きかけを是枝裕和監督、深田監督など有志が進めているとか。ぜひ実現させてほしいです。

 今回は互いの作品のことから、日台の映画界やマーケットについての話題まで踏み込んだまさに貴重な対談となりました。

村上淳子(映画ジャーナリスト・海外ドラマ評論家)