2024年10月31日「東京国際映画祭2024」に併設されたビジネスコンテンツマーケット・TIFFCOM 2024が主催するセミナー「Hong Kong Films @Tokyo」の企画として、サモ・ハン・キンポー(洪金寶 以下はサモハンと表記)、倉田保昭、谷垣健治によるパネルディスカッションが開催された。
超豪華な3人のパネラーが何を語るのか。香港アクション映画ファンには嬉しすぎるイベントだ。
当日は同行したエンタメパレスのスタッフさんが奮闘して前から2列目の席を取ってくれたので、間近にパネラーの尊顔を拝することができたが、イヤホンによる同時通訳だったので録音できず、必死にメモに精を出していたので写真が撮れずで(-_-;)、こちらもスタッフさんのお世話になりました。
※谷垣さんはかなり広東語で答えていたのでこれも同時通訳された。
最前列には映画祭のため香港から来日していた俳優や監督、スタッフなどがずらりと並んでいた。僕が確認できたのはコンペティション出品作『お父さん』のフィリップ・ユン(翁子光)監督くらいだが、『ラストダンス』出演のミシェール・ワイ(衛詩雅)や、谷垣健治がアクション監督を務めたアクション巨編『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(サモハンが堂々たる貫禄の敵役!)の若手俳優陣、テレンス・ラウ(劉俊謙)たち?がいたらしいと後から教わったが、背中では残念ながら誰か判別がつきませんでした。彼らは谷垣の話にビビッドに反応していて、それを受けて谷垣が笑顔で指さしてたのも印象的だった。
さて早速、拍手の中3人が壇上に現れた。
サモハンには落ち着いた大立者の貫禄とオーラを感じた。倉田保昭はスマートできれいな白髪にダークスーツが決まっていて枯淡の魅力があった。一方、谷垣健治には今が旬の映画人の生き生きとした感じがある。香港映画歴代興行収入を塗り変えた映画を作った勢いと自信を感じた。
以下、3人の話をメモを頼りにいくつかピックアップして紹介する。
サモハンは語る。
「香港のアクション映画は世界に誇れるコンテンツです。アクション監督はエキスパートとして重要な役割を果たしていた。昔は裏方として報われてこなかったが、映画賞の対象となり労が報われるようになった」
香港アカデミー賞(以下「香港電影金像奨」)の公式サイトを見ると、サモハンは1982年度第2回香港電影金像奨の最佳動作指導賞を『ユン・ピョウ in ドラ息子カンフー(敗家仔)』(長いので以下は『ドラ息子カンフー』と略)で受賞している。前年のリストにはない賞だ。
※近年は名称が「最佳動作設計」賞に変わったようだ。
サモハンはこの年、監督・主演作『ピックポケット!(提防小手)』で主演男優賞も受賞している。サモハンの全盛期といえるだろう。
余談だがこの香港電影金像奨の80年代の候補リストを見ると傑作揃いで、アクション映画かどうかではなく、香港映画黄金時代の輝きを感じた。
サモハンは続けて「自分は幸運なことにとてもいい師匠たちに恵まれた。最初は京劇を学び、映画界に入ってからは現場で学び、アクション俳優は、自分が生涯をかけてやる仕事だと思った」
映画『七小福』(88年)でお馴染みだが、サモハンは10歳の頃に于占元師匠の中国戯劇学院に入学、8年間、師匠の厳しい指導の下で京劇を学んだ。
『七小福』でサモハンは于占元師匠を演じて香港金像奨主演男優賞を再び受賞。個人的には好きなアレックス・ロー監督の作品(妻のメイベル・チャンが脚本)ということもあり記憶に残る名作である。
いうまでもないが、ジャッキー・チェン(成龍)、ユン・ピョウ(元彪)、ユン・ワー(元華)など、その後の香港アクション映画界のレジェンドたちがモデルの映画だ。サモハンは、比較的近作のオムニバス映画『七人楽隊』(22年)でも于占元師匠を演じている。
サモハンについて書いているときりがなくなるので次は倉田保昭だ。
筆者の思い出としては、香港映画界で大活躍する日本のアクション俳優として映画雑誌に伝説のブルース・リーと肩を組んだ倉田の写真がたびたび掲載され、当時、興奮して読んだものだ。香港映画『帰ってきたドラゴン』(73年)などに出演したのち、凱旋帰国して、東映の千葉真一主演のアクション映画『直撃! 地獄拳』、 志穂美悦子主演『女必殺拳 危機一発』(どちらも74年)等に助演したのち、刑事ドラマ『Gメン75』に出演し大人気となった異色の経歴だ。
方向性は違うが今でいうとディーン・フジオカか。
丹波哲郎を筆頭にずらりと空港の滑走路を歩く『Gメン75』のタイトルバックのシーンには胸が躍ったものだ。
倉田は語る。
「1969年頃だったか、香港映画のオーディションがあるから行ってみないかと誘われた。<嘘だろ?>と半信半疑で帝国ホテルに行ってみたら、ランラン・ショウさん<邵逸夫 当時香港最大手の映画会社ショウ・ブラザーズの社長>がコーヒーショップでお茶をしていた。そこで彼に挨拶をしただけで、もう帰っていいよと。そのあと、<お前に決まった。2週間香港に行け>と言われ、親から3万円借りて羽田空港から飛び立った思い出がある。
香港のアクション映画の現場に行ってその活気に驚いた。スタントマンや殺陣師やスタッフが100人くらいいてもうびっくり! これはすごいと。なんでみんなこんなにアクションしてるんだろう<笑>と不思議だった。NGにしても何十回も出す。編集でゴマかさない、その真剣な現場に圧倒されました」
倉田保昭の語り口は朴訥だが、それがユーモラスな感じで会場もウケている。
倉田は続けて語る。
「『Gメン75』のあと、一時仕事がなかった時期にサモハンから電話もらいました。<今何してる?><仕事がないんだよ><えー、じゃあ今撮影している映画に出てよ>と声を掛けてもらって出演したのが『七福星』(サモハン監督・主演の『五福星』シリーズ。若きアンディ・ラウ<劉徳華>が出演)でした。その後サモハンさんとは何度も仕事をさせてもらった。今、自分があるのは香港映画のおかげですよ!」
『七福星(夏日福星)』(85年)を最近見直したが、倉田保昭は後半クライマックスに登場。敵役だが、ちらと獲物を見つめる目が精悍で、その後のアクションシーンを予感させる演技だ。そして、サモハンが演出したであろうジャッキー・チェンとの壮絶な一騎打ちのアクションがすごい迫力だった。
倉田はその後、『上海エクスプレス(富貴列車)』(86年)や『イースタンコンドル(東方禿鷹)』(86年)など サモハンのアクション巨編に次々起用された。2作とも大迫力の香港エンターテイメント活劇である。
サモハンは「倉田さんは演技がうまい。アクションも自分が目指す動きをきちんとやってくれる」とここでも改めて絶賛していた。
次は監督・アクション監督の谷垣健治だ。
「今お話をお聞きして、自分が生まれたころに倉田さんは香港に行ったんだなと思った。僕は小さい頃からテレビで香港映画を見て育った。香港アクションは独特です。翌日に学校に行くとみんな『酔拳』のジャッキーのモノマネをしている。それだけ香港アクションは特徴がありました。
その後、倉田さんのアカデミー(倉田アクションクラブ大阪養成所)でアクションの基本動作を学んだ。京都の時代劇の撮影所では刀を振る動作などを身に付けて、香港に渡っで広東語を覚えた。中国本土からもたくさん武術家が来ましたが、彼らもみな広東語を学んで、香港映画のやり方、香港アクション映画の流儀を学んだ。香港アクション映画はシステムが確立していました。
ハリウッドは分業が基本ですが、香港ではアクション監督が振り付けもやるし、ワイヤーを操ったり、カメラワークもやるし、編集作業にも関わります。サモハンさんなんかはそうですが、作品の全てをコントロールしています。それがすごい」
谷垣さんは続けて「先達のおかげで、チャイナタウンが世界の各都市にあるみたいに、香港アクションが世界各国に浸透し、世界の映画人に影響を与えている。香港アクションの魅力とクオリティの高さのおかげです。
CG全盛期ではありますが、(アクション映画は)自分の頭で考えて、自分の手足を動かしてなんぼの世界です。命がけでやってる人の素晴らしい動きを見て、そこにエフェクトをかけたいと思いますか?」
世界で活躍する谷垣健治の面目躍如の発言だ。
谷垣健治がアクション監督を務めた『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』に関して、出演者でもあるサモハンは「この映画のアクションは全部好きです。映画が大ヒットしたことも嬉しいです。自分にもおめでとうと言いたい<笑>。香港映画館で大切なのはお互いをリスペクトすることです!」と話す。
出席者からパネラー3人に質問があった。これなかなかは興味深かった。
「後世に残したい香港アクション映画を3本挙げてください」というものだ。
どんな作品を挙げるだろうか?
サモハンはまず『ドラ息子カンフー』を挙げてから、『ぺティキャブドライバー(群龍戯鳳)』(89年)、『おじいちゃんはデブゴン(我的特工爺爺)』(15年)を挙げた。やはり『ドラ息子カンフー』を選んだか!
一方、倉田保昭は先ほど話に出た『七福星』を挙げた。「このとき、冷房がなくて気温40度ぐらいのところでアクションをやって大変だった<笑>」とのコメント付きだ。続けてジェット・リー共演の『フィスト・オブ・レジェンド 怒りの鉄拳(精武英雄)』(94年)、そして親友だったコーリー・ユン監督(元奎 22年にコロナ感染症で没)の『クローサー(夕陽天使)』(02年)を挙げた。
谷垣健治は「70年代だったら倉田さんが出演されている『少林寺VS忍者(中華丈夫)』(78年)。日本と中国の武術が戦うという面白い映画です。80年代なら僕も『ドラ息子カンフー』。90年代は、今日は『酔拳2(醉拳II)』を挙げておきます。明日は違う作品を挙げてるかもですが<笑>」
そして最後に「2000年代以降は『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』です。ぜひ皆さんに見ていただきたい」と締めくくった。
ここに挙がった9作品、レジェンド3人が選んだ魅惑の香港アクション映画をこの年末年始に見るのも一興かと思います。あ、そうだ、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』は1月17日の公開でした。これも必見!
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』の記事はこちら。
https://en-pare.com/entry/2024/11/03/141359
柚木 浩(コミック編集者/映画ライター)
書籍『香港電影城』シリーズの元編集者&ライター。
香港映画愛好歴は、『Mr.Boo!』シリーズを劇場で見て以来。
火が点いたのは『男たちの挽歌』『誰かがあなたを愛してる』『大丈夫日記』『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』あたりから。
好きな香港映画は1980年代後半~90年代前半に集中しているが、2000年以降のジョニー・トー作品は別格。邦画、洋画、韓国映画、台湾映画も見る。ドラマは中国時代劇、韓国サスペンス系。好きな女優、チェリー・チェン。ハリウッド映画、ヨーロッパ映画、韓国映画、邦画など広く見ているがSFファンタジー、ホラー・怪獣映画などジャンル映画も大好物。