チケット争奪戦をなんとか勝ち抜き宝塚歌劇団・雪組『愛の不時着』を観劇してきました。
宝塚が韓国ドラマをミュージカル化するのは2009年の『太王四神記』(07)以来、今回が2度目です。
本作は韓国の財閥令嬢でビジネスでも大成功したユン・セリと北朝鮮のエリート軍人リー・ジョンヒョクの南北の国境を超えたラブ・ストーリーです。
11月28日の韓国アジア経済新聞では“『愛の不時着』日本の伝統女性歌劇で完売で「安着」”というタイトルで本作を取り上げ、「原作を宝塚バージョンに再解釈するために振り付けとダンスだけで3ヶ月以上入念に行った」とドラマを制作したスタジオドラゴン側のコメントを掲載。韓国でも注目されているようです。
意外にも第一幕はコミカル色が強い。夢白あや(あや)演じるセリが強気で溌剌としているのにくらべて、朝美絢(あーさ)演じるジョンヒョクは純朴でシャイ。戸惑いながらも、北に不時着したセリを助けます。
ドラマのなかで「顔天才」と讃えられるジョンヒョクを美貌には定評のあるあーさが演じるのはまさにハマり役。軍服の着こなしが凛々しくカッコいい反面、セリを「婚約者」と偽って第5中隊のみんなに詰め寄られて、もごもごしてる様子が可愛くて可笑しい。
北にいるにも関わらず、「アロマキャンドルがないと困る」などわがまま放題のセリを夢白が天真爛漫にイヤ味なく演じています。
インスタントラーメンを食べる場面では、まさか宝塚で前代未聞!韓国ドラマの定番、アルミ鍋から食べる場面が出てくるとは驚きでした。
本作は朝美& 夢白の雪組新トップコンビ・プレお披露目公演でもあるわけですが、一幕からふたりの相性の良さを感じさせました。
第二幕は一気にシリアスにドラマテックに展開。だから、あえて前半はコメディの比重を多くしたのだと思われます。
ただ、後半は展開が早いため、原作ドラマを観ていない人はあらすじだけでも予習したほうが理解が深まるはず。
韓国に戻ったセリを守るために、南に潜入するジョンヒョク。前半のをシャイな印象から一転、激しいダンスで意志の強さとセリへの想いを表現。
その後、セリを助けるため毅然と嘘をつくシーン、苦悩を秘めた朝美の表情と切ない歌声が心に刺さります。
ラストはピアノの調べとふたりの姿が深く印象に残りました。
そして、フィナーレ。宝塚らしい華やかさで一気に会場を盛り上げます。朝美と夢白が情熱の紅の衣装に身を包んだ華麗なデュエット・ダンスはこれぞ宝塚ならでは。
全16話のドラマを3時間に濃縮した本作は『愛の不時着』のエッセンスと宝塚の魅力を存分にみせつけた作品でした。
◇ミュージカル
宝塚歌劇団・雪組公演『愛の不時着』
主演/朝美絢、夢白あや
潤色・演出/中村一徳
東京公演
2024年11月30日(土) ~12月15日(日)
東京建物 Brillia HALL
大阪公演
2024年12月22日(日) - 12月28日(土)
梅田芸術劇場メインホール
原作tvNドラマ「愛の不時着」パク・ジウン執筆
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Writer : Park Ji eun
村上淳子(むらかみあつこ)
映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家
雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。演劇も守備範囲で宝塚歌劇も長らく観劇している。