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韓国の「自分軸を大切にする」エッセイが日本でも大話題に!

このところ不況の出版界でも、韓国の本が「K-BOOK」として注目を集めています。なかでもK-POPスターが推薦したエッセイが話題になっているのです。

 

あのBTSのジョングクの愛読書でもある『私は私のままで生きることにした』は日韓累計165万部突破(韓国113万部、日本52万部)でなんと2019年から3年連続で年間ベストセラーにランクイン!

 

著者はイラストレーター、作家のキム・スヒョン。年齢や経歴、実力も中途半端なまま大人になったと感じた著者が、「自分を大切にして、自分らしく堂々と生きていけばいい」という思いに至り、同じような不安を抱える人にエールを送るエッセイ集。

 

「大人の思春期は、自分の平凡さを認めてその中で自分の人生を満たすことができたときに終わる。そのときに私たちが本当の大人になれるはず」

 

など、世界にたった一人しかいない“自分”を大切にして生きていくために、忘れないでほしい70のことが綴られています。

 

『あやうく一生懸命生きるところだった』は東方神起のユンホが読んだことでも話題になりました。著者のハ・ワンは40歳を目前に何のプランもないまま会社を辞め、「一生懸命生きない」と決めるのです。その背景には韓国一の美大に入るために浪人し、社会人になってからは少しでも多くお金を稼ぐため会社員とデザイナーのWワークをして疲弊した経緯があります。

 

就職して出世を目指して頑張る。適齢期が来れば結婚・出産する。車や自宅は持っていて当然という生き方を目指して頑張ることに疑問や違和感を抱き、そのレールから降りた著者のゆるい生き方が共感を呼び、韓国で25万部突破の大人気作になりました。

 

韓国で40万部を超えるベストセラーとなった『死にたいけどトッポギは食べたい』は気分変調性障害と診断された著者ペク・セヒの治療記録をまとめたもの。他人に対する恐怖心や不安感に苛まれてカウンセリング受けた体験が綴られているのですが、著者の本音から人はそう簡単にはポジティブになれないとわかるのが、読者の気持を軽くしてくれます。

 

 

この3作に共通しているのは、受験も就職も日本よりとんでもなく厳しい社会の中で生きづらさを感じた著者たちが「そんなに頑張らなくてもいい」「他人と比べるのではなく、いまの自分を認めよう」「無理なポジティブになる必要はない」という自分軸を大切にするメッセージです。

 

これらのエッセイを読んで、ハワイ在住の韓国人の友人ふたりのことを思い出しました。ふたりは共に「韓国はストレスがマックス。ハワイで暮らせてラクになった」と言います。ふたりともそれなりの大学を出て、会社員と教師をしていたのですが、結婚してハワイに移住。夫はどちらも韓国系アメリカ人で公務員と米軍人です。

 

全米一物価が高いハワイでは共働きが当たり前ですが、もと会社員のAさんは旅行会社で週2回アルバイト、教師だったBさんは専業主婦。英語もできるふたりはその気になれば給料の高い仕事に就けると思われるのですが、韓国にいるときのようにバリバリ働く気は全くないときっぱり。

 韓国ではいつも「早く、早く」と「もっと、もっと」と常に早くもっと成功しなければという気持が強くイライラして体調も悪かったのが、ハワイに来てゆったり暮らすようになったら体調が良くなったそう。

ふたりはまだ30代前半なのに、燃え尽き症候群のように見受けられたのですが、きっと彼女たちもこの3冊のエッセイに共鳴するはず。

 

競争を頑張っても、その先にある幸せは誰もが享受できるものではないという現実があります。勝ち抜くことだけではない価値観をみなが求め始め、自分らしい生き方をしたいという気持ちが強くなったことが、このようなエッセイが韓国はもちろん、日本でも人気となった理由に違いありません。

 

村上淳子(海外ドラマ評論家/映画ジャーナリスト)