エンタメパレス

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音楽プロデューサーの今だから言えること【ユニコーンのEBI(エビ)】(連載4)

はじめに。

元ソニー・ミュージックエンタテインメントのプロデューサー今泉雅史です。

「最近のヒットチャートはわからない」「音楽の分断化が進み国民的ヒットがない」「昔の曲がいい、今の曲がいい」とか言い争うのはよしとしても、好きなジャンル以外に関心が無いのは、困ったものだ。

 いま、アイドルの世界では、ジャニーズ問題が大きいが、Jポップスの世界ではアーティストがダイレクトにSMSから発信するスタイル、今までのメーカー、プロダクションの枠を取り払ったミニマムな展開からの自然発生的なヒットの時代を迎えている。

 自主制作を超えた新しい配信と、サブスクの時代に、あえて70年代から90年代のアナログからCDへの転換を最大トピックとする音楽業界の派手でキラキラした世界だけでない、約30年間、業界で働いた当事者としてリアルにもう一つの事実を伝える事で、これからの音楽やクリエイティブを担う、担いたいピープルに、温故知新というか、ちょっとしたヒントになればという気持ちから書き記したものです。

 

◼️超人気バンドUNICORN (ユニコーン )のメンバーソロアルバム、特にEBI

 1985年ソニーオーディション広島には、社内の制作部の大半が集っていたと思われる。その夜の飲み会での評判は、UNICORN (以下、ユニコーン )というバンドを押す声がダントツだった。奥田民生という凄く魅力的なボーカリストを中心に、よくまとまったバンドだったし。

 さて、オーディションあるあるで、良い素材を各制作セクションのメンバーが取り合いをする事が多いのだか、ラッキーなことにユニコーンは当時、僕がいた第2制作本部が獲得した。その後は担当したプロデューサーであるマイケル河合の奔放な制作スタイルで、"服部"とか、"踊る亀ヤプシ"とか、"大迷惑"とか人を食ったタイトルに名曲を乗せてヒットを連発してトップグループとして君臨する。

 そんなある日、マイケルから「メンバー5人のソロを出したいので何人か手伝って欲しい」という相談があった。僕は予算がかかってもいいならと、条件付きでベーシストの堀内一史、通称EBI(エビ)を指名した。

 彼は天真爛漫という言葉が似合う天然キャラでありながら、甘いマスクと時折見せる哀愁の表情のギャップがとあるコンセプトを感じさせてくれた。それはユニコーンとは一線を画したヨーロッピアン・デカダンスというもので、「徹底的にニューウェーブの香りと暮れゆくヨーロッパの退廃的な美しさを追及したい」と告げると、なんとなくだったがEBIも興味ありという事だった。
 
 そこで、サウンドメイクは元YMOとムーンライダーズに決定。髙橋幸宏、鈴木慶一、岡田徹、かしぶち哲郎、白井良明、鈴木博文、森雪之丞(作詞)と、豪華なラインナップで臨んだ。ちなみにNY在住の坂本龍一は物理的に諦めたが、細野晴臣には僕がやる必然性が無いと断られた。うーむ、残念。

 しかし、さすが皆様、超一流のミュージシャン、全員予想以上のキレっキレっのサウンドを創ってくれた。チューブウェイアーミイ風のリフとスネアが印象的な慶一、森のコラボ"デカダンスの虹"から、ファンタジックながら、妙な不安感漂う髙橋幸宏の世界観。岡田の精緻に組み立てられた音世界を通り、白井の弾けるロックンロールを経て、かしぶちのロマンティックなヨーロッパの憂愁で締める構成は、自画自賛ながら感動的と言えた。

 アルバムは『MUSEE(ミュゼ=美術館)』とタイトリングして、美学の完成を期した。正直、ユニコーン のEBIのファン層には重ならないけれども、なんと15万枚もセールス、ヒット作となった。

 

MUSEE (ミュゼ)

MUSEE (ミュゼ)

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 続いて冒険的なシングル、ホッピー神山のアフリカンなジャングルビートを生かしたヘビーファンクな作品、佐久間正英のアコースティックなバラードをリリースしたが、EBIは見事に変幻自在に歌いこなしてくれた。この流れでヨーロッパ、イギリス、フランス、ベルギーなどでパブリシテ用の撮影に2人で行ったのも、いい思い出か。
  更に3年後、今度はお洒落で洗練された音楽性を持つ井上鑑をプロデュースに迎え、2ndアルバム『film』をリリース、等身大のをEBI表現。更に同じスタッフイングでダンサブルな3rdアルバム『Love the Rhythm』を発表した。

 

film

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Love the Rhythm

Love the Rhythm

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 奥田、ABEDON(当時はABE B)、川西(新バンド、“ヴァニラ”として)、手島も新バンド“ビッグライフ“として、それぞれソロアルバムをリリース。多彩で賑やかだったけどユニコーンファンは全部のアルバムを買って応援するのは大変だったと思うなぁ。ちなみに温厚な手島のバンドは僕と白井良明でプロデュースした。なかなかソウルフルな傑作だと思う。
 いずれもアーティスト、スタッフ共に自由な発想や制作が可能だったいい時代だったなとしみじみ思う。

  

 なお、ユニコーン 、今年のツアーはニューアルバムに合わせて『クロスロード』と題して、2023年12月2日から2024年3月まで。メンバー、EBIも、手島も、ABEDONも各々をフイチヤーしたライブもあるのでお見逃し無く。ん?いまも自由なんだろうな。スケジュールは公式サイトでチェック。

 

 

 

【教訓】コンセプトがあるのも、そして無いのもコンセプトである。自由に走ってもらうのが良いアーティストもいるし、その逆もあるってことです。
多分、最も自由なバンドがユニコーンである事は間違いない。

UNICORN公式サイト

https://www.unicorn.jp/sp/

 

今泉雅史(音楽・落語プロデューサー、プランナー)
1973年広告会社入社。コピーライターとして企業広告、日産チェリー等を手がける。1975年、ソニーミュージックエンターティンメント(当時はCBSソニー)に入社。洋楽宣伝、大阪営業所販促を経て1980年より邦楽プロデューサー。主な担当アーティストはHOUND DOG(ハウンドドッグ)、PSYS(サイズ)、ZELDA(ゼルダ)、Scanch(すかんち)、the東南西北、溝口肇、白井良明(ムーンライダーズ)など。2007年、カタログマーケティング中心のソニーミュージックダイレクトに移動、YMO、シーナ&ロケッツ、戸川純、等アルファレーベルを担当、2009年から伝統芸能、落語を中心のレーベル、来福を立ち上げる。主な作品、古今亭志ん朝、柳家小三治のDVD全集。春風亭昇太中心の新作ユニットSWA(すわ)のCD.DV D等。2012年退職。フリープロデュサーとして、落語イベント‘’渋谷に福来たる"等のの企画、制作に携わる。