韓国では祖国独立の英雄、日本では伊藤博文の暗殺者アン・ジュングン(安重根)をヒョンビンが演じると知ったときは、よりによってと思った人が多かったのでは…。
しかし、本作ははっきり言って日本人としては沈痛なシーンも多々ありますが、1909年10月に中国・ハルビンで起きた歴史的事件、アン・ジュングンが伊藤博文を暗殺するに至るまでの経過と心情を追いながら、当時の独立運動家たちの闘争と葛藤、密偵を炙り出すミステリー的な要素もある展開は、たんなる抗日作ではない実録サスペンス作なのです。
まず、目を奪われるのはファーストショット。氷結した河の上をひとり彷徨うアン・ジュングンの荒涼としたシーンは圧巻の映像美です。
これまでドラマ『愛の不時着』(19)から映画『コンフィデンシャル』(17)シリーズや『ザ・ネゴシエーション』(18)まで、難易度の高いアクションからロマンス演技まで見事にこなしてきたヒョンビンが、今回は祖国独立に命をかける大韓義軍参謀中将に挑み、新たなカリスマ像を構築しました。
6月26日に開催されたジャパンプレミアにはヒョンビン、リリー・フランキー、ウ・ミンホ監督が登壇。
監督は「英雄としてのアン・ジュングンの人間的な姿を描きたいと思ってこの映画を作ろうと思いました」と企画意図を解説。
映画での来日イベントとしては、今回のジャパンプレミアが19年ぶりとなったヒョンビンは、
「韓国ではアン・ジュングンの存在感はとても大きいです。しかし彼も一人の人間として多くの感情を抱えていたので、それらを映画を通して見せたいと考えました。そして監督が伝えたいことにすごく誠意を感じました。彼は常に“意味のある映画を作ろう”と仰ってくれたから、一緒に作品を撮りたいと出演を決めました」
「日韓の歴史的事件を描いているので、観客の皆さんとこの作品を通じてお会いするということを感慨深く思っています。日本の皆さんにどのように見ていただけるのか、気になると同時に緊張しています」と率直に心境を語りました。
シナ山でアン・ジュングンとともに命がけで戦うも、日本軍捕虜を生かしておこうとする彼に激しく抗議。のちに自ら指揮をとると主張するイ・チャンソプ役にはイ・ドンウク。硬派で国のためなら仲間をも切り捨てる冷血漢を余すところなく表現する迫真の演技で、『トッケビ〜君がくれた愛しい日々』(16)の死神役から一転、ワイルドな魅力を抜擢!
シナ山の戦闘で大韓義軍に敗北するも、釈放された日本軍の捕虜、森辰雄少佐。その後再び攻め込み敵軍に大きな打撃を与え、アン・ジュングンを追い続ける敵役に徹したパク・フン。その残忍さとキレっぷりで凄みのある存在感を放っています。
初代内閣総理大臣や韓国統監を務めた伊藤博文はロシア高官との会談のため、大連、長春を経由してハルビンへと向かう途中、自身の命を狙う一団にがいることを知るのです。監督もヒョンビンも大ファンで伊藤博文役に抜擢されたリリー・フランキー。もともと容姿が似ていることも相まって「実物以上の表現をしてくれて、この場で改めて感謝の気持ちを伝えたいと思います」と絶賛でした。
ちなみに監督はヒョンビンと同じ中央大学出身。青龍映画賞作品賞を受賞した朴正煕大統領暗殺を描いた『KCIA 南山の部長たち』(20)など、現代的な視線で過去を再構築し、スケールの大きな作品として観客に届ける手腕に長けており、本作でも存分に発揮されています。
撮影監督ホン・ギョンピョは、戦争大作『ブラザーフッド』(04)で数々の賞を受賞。主な作品に『哭声/コクソン』(16)、『パラサイト 半地下の家族』(19)など独特のリアルと映像美が共存する世界観を生み出してきました。本作でもファーストシーンの氷結した河から、ロシアの森閑とした荒野までを捉え、時に絵画のような印象的なシーンを描写しています。
ジャパンプレミアでのヒョンビンは、「ストーリーはとても難しくてつらいかもしれないけど、一歩一歩信念をもって進めばいい未来が待っている、という希望を届けてくれる映画です」と本作の見どころを語りました。
壮絶な戦闘シーンと対極の自然界での映像美、日本では暗殺者と呼ばれるアン・ジュングンの新たな一面と葛藤から戦争の理不尽さを痛感させる本作は、世界で戦火が収まらない今こそ観るべき作品です。
◇ストーリー
1908年咸鏡北道(ハムギョンブクト)シナ山で参謀中将アン·ジュングン(安重根)率いる大韓義軍は、日本軍との戦闘で大きな勝利を収める。だが、アン・ジュングンは万国公法に従い戦争捕虜である日本人陸軍少佐 森辰雄らを解放。これをきっかけに大韓義軍の間ではアン·ジュングンに対する疑いとともに亀裂が生じ始める。
1909年ウラジオストクにはアン·ジュングン、ウ·ドクスン、キム·サンヒョン、コン夫人、チェ·ジェヒョン、イ·チャンソプら、祖国奪還のために強い絆で結ばれた同志が集まる。伊藤博文がロシアと交渉のためハルビンに向かうという知らせを聞いたアン・ジュングンたち。一方、日本軍は大韓義軍の密偵からある作戦の情報を入手、ハルビンへ向かう彼らへ追撃が始まった…。
◇作品詳細
『ハルビン』
2025年7月4日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
監督:ウ・ミンホ
脚本:キム・キョンチャン、ウ・ミンホ
撮影:ホン・ギョンピョ
出演:ヒョンビン
パク・ジョンミン
イ・ドンウク
リリー・フランキー
2024年/韓国/114分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/字幕翻訳:根本理恵
提供:KADOKAWA Kプラス MOVIE WALKER PRESS KOREA 配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス
公式サイト harbin-movie.jp 公式X https://x.com/harbin_movie
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