エンタメパレス

映画、海外ドラマ、本を中心に、執筆メンバーの激推し作や貴重な取材裏話など、エンタメ好きの心に刺ささる本音どっさりのの記事をお届けします。

音楽プロデューサーの今だから言えること【Scanch(すかんち)】(連載2)

はじめに。

元ソニー・ミュージックエンタテインメントのプロデューサー今泉雅史です。

「最近のヒットチャートはわからない」「音楽の分断化が進み国民的ヒットがない」「昔の曲がいい、今の曲がいい」とか言い争うのはよしとしても、好きなジャンル以外に関心が無いのは、困ったものだ。

 いま、アイドルの世界では、ジャニーズ問題が大きいが、Jポップスの世界ではアーティストがダイレクトにSMSから発信するスタイル、今までのメーカー、プロダクションの枠を取り払ったミニマムな展開からの自然発生的なヒットの時代を迎えている。

 自主制作を超えた新しい配信と、サブスクの時代に、あえて70年代から90年代のアナログからCDへの転換を最大トピックとする音楽業界の派手でキラキラした世界だけでない、約30年間、業界で働いた当事者としてリアルにもう一つの事実を伝える事で、これからの音楽やクリエイティブを担う、担いたいピープルに、温故知新というか、ちょっとしたヒントになればという気持ちから書き記したものです。

 

■ハードロック+グラムロック=美学爆発の

奇天烈バンド「Scanch(すかんち)」のロックオマージュ

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  • アーティスト:SCANCH
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 大阪府高槻市が生んだ良くも悪くも、極端なロックバンドScanchだが、ソニー・ミュージックアーティスツ制作部長と高槻の小さなライブハウスに噂を聞いて尋ねた日のことは忘れられない。ちなみに当時の新人探しは、システム化されたS D(現・ソニー・ミュージックアーティスツ)オーディション以外には、噂や口コミを伝っていくしか無かったのだ。

 ステージのROLLY(ローリー)は、ほぼ白塗りの厚化粧でまるで間違ったピエロみたいで、部長と僕は「がっくり」という表情で顔を見合わせた。ただ強烈なギターサウンドに刻まれるロックの名フレーズに大笑いしながら、これも極端なパクリ具合に感心した。そして良く見ると、マッドサイエンティスト風のキイボート、オシャレなグラムスタイルに吉本テイストという謎の派手派手キュートなベーシスト、大道芸人に見立てた人間ポンプというドラマーという、ずれまくったお笑い芸人バンドというたたずまい。

 

 話しかけようかめっちゃ迷ってるとROLLYが全速力で突進してきた。「レコード会社の人でっか?」の声に始まった怒涛のセルフプロモーションに、部長と共に煙に巻かれて「連絡するよ!」と思わず言ってしまった。しかし今にして思うと、まさにセルフプロデュース力発揮の端緒だったわけだ。

 ファーストアルバム“恋のウルトラ大作戦"リリースの時には、お笑い芸人集団からロックスターのオーラを身につけ出した。一つには、全世界のグローバルなロックへの限りない愛から生まれたオマージュ、曲によってはパクリとしか言いようの無いものもあるけど根底に潜む愛情が、新しい楽曲として昇華している所以であろう。
 ベイシテイローラーズ、スイート風味にサーチヤーズ添加とも言える手の込んだ"恋のマジックポーシヨン"の大ヒットは言うに及ばず、クイーン、ゼップ、ロイウッド、ゲイリーグリッター、モツトザフープル、ザフーなどなど数えきれないロッカー達へのリスペクトに溢れたナンバーばかりだから元ネタ探しも楽しいかも。

 そして、彼等は、後世にバトンを渡すという義務感に駆られての止むに止まれぬ所業だという。それは、ロック伝統のファッションも例外では無い。少しお金が出来ると、常にアップデート!前述のバンドはもちろん、デビットボウイ、Tレックス、スレイド等のグラムロック勢のかっこいいというより、奇天烈としか言いようのない、極端な派手さでステージを飾った。

GOLDEN☆BEST ROLLY

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 それは主にROLLYのブレない美学で武装されて、解散以降にシャンソン、ミュージカルに場を広げても変わる事は一切無い。今も真っ直ぐに爆発を続けている。決して売れっ子バンドとはいえない彼等がシーンに確固たる地位を固めている所以だ。

【教訓】
継続はやっぱりチカラになるし、好きこそ全てだ!


※文中では敬称は略して表記させていただきました。

 

ROLLY公式サイト

https://www.rollynet.com/profile/

 

今泉雅史(音楽・落語プロデューサー、プランナー)
1973年広告会社入社。コピーライターとして企業広告、日産チェリー等を手がける。1975年、ソニーミュージックエンターティンメント(当時はCBSソニー)に入社。洋楽宣伝、大阪営業所販促を経て1980年より邦楽プロデューサー。主な担当アーティストはHOUND DOG(ハウンドドッグ)、PSYS(サイズ)、ZELDA(ゼルダ)、Scanch(すかんち)、the東南西北、溝口肇、白井良明(ムーンライダーズ)など。2007年、カタログマーケティング中心のソニーミュージックダイレクトに移動、YMO、シーナ&ロケッツ、戸川純、等アルファレーベルを担当、2009年から伝統芸能、落語を中心のレーベル、来福を立ち上げる。主な作品、古今亭志ん朝、柳家小三治のDVD全集。春風亭昇太中心の新作ユニットSWA(すわ)のCD.DV D等。2012年退職。フリープロデュサーとして、落語イベント‘’渋谷に福来たる"等のの企画、制作に携わる。