エンタメパレス

映画、海外ドラマ、本を中心に、執筆メンバーの激推し作や貴重な取材裏話など、エンタメ好きの心に刺ささる本音どっさりのの記事をお届けします。

音楽プロデューサーの今だから言えること【THE東南西北】(連載5)

 

はじめに。

元ソニー・ミュージックエンタテインメントのプロデューサー今泉雅史です。

「最近のヒットチャートはわからない」「音楽の分断化が進み国民的ヒットがない」「昔の曲がいい、今の曲がいい」とか言い争うのはよしとしても、好きなジャンル以外に関心が無いのは、困ったものだ。

 いま、アイドルの世界では、ジャニーズ問題が大きいが、Jポップスの世界ではアーティストがダイレクトにSNSから発信するスタイル、今までのメーカー、プロダクションの枠を取り払ったミニマムな展開からの自然発生的なヒットの時代を迎えている。


アイドルバンドTHE CHECKERS (チェッカーズ)と

80年代を併走した抒情派青春バンド The東南西北

 "涙のリクエスト"ギザギザハートの子守唄"ジュリアに傷心''(ハートブレイク)と、次々に大ヒットを飛ばし、チェック柄のファッションセンスと共にTHE CHECKERS(以下チェッカーズ)が、王道ポップ街道を鮮やかに走り出した頃、 CBS SONYオーディションという実績あるオーディション、音楽が、演歌や、アイドル系全盛時代から、ロック、ニューミュージックへと雪崩れをうって変貌していった時代に焦点を合わせ全国規模の企画として、花開いていた。

 ザ・ブーム、ユニコーン、X、バービーボーイズ、尾崎豊といつたアーティスト名を見るだけで明らかだろう。思えばこの頃が、レコードメーカーが音楽トレンドの中心にいたわけで、今となっては懐かしいとしかいいようがない。

 その流れの真っ只中、1984年のオーディションでThe東南西北は、聖飢魔II、種とも子、LOOK 等と共に見事に合格する。演奏はいまいちだったが、リーダー久保田洋司の卓越したソングライティング力はもちろん、メンバーのナチュラルで素朴な感じも審査員のココロを掴んだようだ。

 そして、サザンオールスターズに続くスターを求めていた大手芸能事務所アミューズと無事契約する事となる。ちなみに、バンド名は、麻雀用語で、''ざとんなんしやーぺー"と読む。メンバーがあの風光明媚な尾道の東西南北に住んでいたという事から命名された。

飛行少年

飛行少年

Amazon

 デビュー曲は、ラブソング"ため息のマイナーコード'。楽しくもはかない、油断するとこぼれおちてしまいそうな青春のスナップショットともいうべき場面を切り取った久保田オリジナルでデビュー。この頃流行っていた12インチシングルでのデビューも話題になった。タイアップもあつたが、残念ながら大ヒットには至らなかった。 

 さて、どういう方針で臨むか、仮想敵を僕の中ではチェッカーズに定めた。とはいえ、連日メディアを騒がせヒットを作り続ける彼等にそう簡単に追いつける訳がない。だから彼等を「太陽」とすると、The東南西北を「月」と見立てるロマンティックでセンチメンタルな路線でいこうと。

 向こうがポップにはっちゃけた売野雅勇氏の作詞でいくなら、文学的で哀愁感溢れる松本隆氏でと、第二弾シングルは誰にでも当てはまる片想いを描いた"内心、 Thank You"を、そして1人ヨガリの恋愛の苦しさを見つめる''シャドウ ダンシング''そして、よりストレートなラブソング"あの子が欲しい" と続き、久保田と松本氏のリレーションもより緊密になったが、どうしてもヒットには至らなかった。

 そこに、松本氏の小説のノベライズピクチャーともいうべき"微熱少年"のサブテーマソングとして"君の名前が呼びたい"が、選ばれたのだ。まさに、抒情派ロックの到達点ともいうべきアルペジオギターと、ストリングスが溶け合った佳曲だった。が、である。その頃、まさにチェッカーズのライバルというべき、CCBも台頭、チャートを賑わせていた。シングルは、松本隆作詞の"ロマンティックが止まらない"だった。こうしてThe東南西北は、チェッカーズ解散の2年前、91年に静かに消えていった。

しかし、久保田洋司はソロとして再デビューを果たした後、作詞作曲家として現在も活躍中で、もちろん松本氏とも良好な関係である。

久保田洋司

久保田洋司

  • アーティスト:久保田洋司
  • コロムビアミュージックエンタテインメント
Amazon

 更にThe東南西北は、 22年後再結成を果たしアコースティック ベストアルバム"re flight"をリリース、30周年記念アルバム’コンパス"を出して現在も、年に数回ツアーを続けている。

GOLDEN☆BEST/THE東南西北-Ever Lasting Blue

GOLDEN☆BEST/THE東南西北-Ever Lasting Blue

  • アーティスト:THE 東南西北
  • ソニーミュージックエンタテインメント
Amazon

【教訓】

コンセプトを頑なに追わずに、臨機応変で、対処すべき。この場合、強いカードがソニー、アミューズ、松本隆氏と揃ったことへの安心感があった事の慢心、今さらながら猛反省するばかりである。

※文中では敬称は略して表記させていただきました。

今泉雅史(音楽・落語プロデューサー、プランナー)
1973年広告会社入社。コピーライターとして企業広告、日産チェリー等を手がける。1975年、ソニーミュージックエンターティンメント(当時はCBSソニー)に入社。洋楽宣伝、大阪営業所販促を経て1980年より邦楽プロデューサー。主な担当アーティストはHOUND DOG(ハウンドドッグ)、PSYS(サイズ)、ZELDA(ゼルダ)、すかんち、the東南西北、溝口肇、白井良明(ムーンライダーズ)など。2007年、カタログマーケティング中心のソニーミュージックダイレクトに移動、YMO、シーナ&ロケッツ、戸川純、等アルファレーベルを担当、2009年から伝統芸能、落語を中心のレーベル、来福を立ち上げる。主な作品、古今亭志ん朝、柳家小三治のDVD全集。春風亭昇太中心の新作ユニットSWA(すわ)のCD.DV D等。2012年退職。フリープロデュサーとして、落語イベント‘’渋谷に福来たる"等のの企画、制作に携わる。