エンタメパレス

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音楽プロデューサーの今だから言えること【PSY•S(サイズ)】(連載1)

はじめに。

元ソニー・ミュージックエンタテインメントのプロデューサー今泉雅史です。

「最近のヒットチャートはわからない」「音楽の分断化が進み国民的ヒットがない」「昔の曲がいい、今の曲がいい」とか言い争うのはよしとしても、好きなジャンル以外に関心が無いのは、困ったものだ。

 いま、アイドルの世界では、ジャニーズ問題が大きいが、Jポップスの世界ではアーティストがダイレクトにSMSから発信するスタイル、今までのメーカー、プロダクションの枠を取り払ったミニマムな展開からの自然発生的なヒットの時代を迎えている。

 自主制作を超えた新しい配信と、サブスクの時代に、あえて70年代から90年代のアナログからCDへの転換を最大トピックとする音楽業界の派手でキラキラした世界だけでない、約30年間、業界で働いた当事者としてリアルにもう一つの事実を伝える事で、これからの音楽やクリエイティブを担う、担いたいピープルに、温故知新というか、ちょっとしたヒントになればという気持ちから書き記す連載です。

 

■日本のデジタルポップの伝統の橋渡し
となったPSY•S(サイズ)の存在

 

 大ヒットや、優れたアーティストは、突然生まれたものでは無い。脈々と流れる熱い血を受け継いだ遺伝子によるものかもしれない。
 例えば現在の最先端ヒットユニットYOASOBI が登場したのも、かつて男女ポップという世界を切り開いたPSY•Sや日本のテクノポップの原点、コンピュター音楽を創り出したイノベーターYMO(イエローマジックオーケストラ)の存在があったからだ。

 

 

 先日、惜しまれながら世を去った、日本を、そして世界をも代表するミュージシャン、坂本龍一、高橋幸宏に、細野晴臣を加えたYMOが、デビューしたのが1978年、日本のバブル経済が走り出した頃だ。ちなみに、後年、僕は坂本教授監修によるYMO CDベストを発表したり、幸宏氏の監修で DVDベストをリリースした関係で彼等の素顔に触れている。ま、才能があり、カッコいいんだから、いろいろ噂は聞いたけど…その話はまた今後の連載で。

 それはともかく、一時代を創り上げた彼等が散解した年、1983年末大阪の一角で産まれたのがコンポーザーの松浦雅也とパワー系ボーカリスト安則まみ 通称チャカの男女ユニットだ。
 松浦は大学生の時からスタジオでエンジニアを勤めながら、作曲、編曲の力を磨き上げ、ビルブラツフオードとのコラボアルバムを、自主制作で発表するなど活躍。そして当時アマチュアファンクバンド、''アフリカ"のボーカリスト、チャカを迎えて実験的ユニット、"プレイテックス"を結成。

 このインディーズ盤が、大阪でタレント発掘業務をしていた SD(現在のソニーミュージックアーティスツ)関西の目に留まり、新人ディレクターの僕の元にも送られてきた。
 一聴して、フェアライトという最新型のコンピュータを駆使したサウンドの新しさ、ソウルフルでありながらユーミンの香りもあるボーカリストの組み合わせにビックリ!ライブも無かった新人と大至急コンタクト。
 ニューウェーブポップとしてプランニング、マニア界隈で活躍していたムーンライダーズのキーボーデイスト岡田徹をプロデュースに迎え、レコーディングに入るはずが、そうトントン拍子にはいかなかった。
 
 アーシーでプリミティブなボーカルスタイルでメイクやスタイリングなどに、あまり関心の無かったチャカと、最新鋭の未来型音楽を志向していた松浦の間が一枚岩ではなく、松浦のイメージに合ういわゆるオシャレなタイプのボーカルを探すのはどうかという意見があり結構時間がかかった。
 結果は、松浦がチャカの唄のうまさ、変幻自在さが必要ということで決着。ビートポップな、『ティーンエイジ』いう曲でデビュー!

 3か月後、ギターに鈴木賢二、ベースに安倍王子、ダンスに南流石等を加えライブバンドとしてもデビュー!
 『エンジェルナイト』『フレンズorラバーズ』『kisses』等が、スマッシュヒットしたが、残念ながら1996年活動停止。

 

GOLDEN☆BEST/PSY・S[s iz]SINGLES+(シングルス・プラス)

GOLDEN☆BEST/PSY・S[s iz]SINGLES+(シングルス・プラス)

  • アーティスト:PSY・S
  • ソニーミュージックエンタテインメント
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 現在、チャカは主にジャズのボーカリストとして全国ツアーを重ねている。時々、PSY•Sの曲も歌っている。かたや、松浦は『パラッパラッパー』というラップの音楽ゲームが大ヒット。さらに音楽のゲームを作り続けて世界的にも有名な存在になっている。

 

 PSY•S活動停止から23年、時代は移りボカロプロデューサーAYASEが、小説を音楽にというプロジェクトに応募。インスタで見つけたボーカルIKURAとコラボしたYOASOBI。大バズりしたデビュ曲『夜に駆ける』の大ヒットを受けて、今年ローンチされた『Idol』がビルボードのグローバルチャート1位を獲得 。

 YMOから出発したに日本のお家芸とも言えるデジタルポップ。そして男女ユニットの先達、PSY•Sを越えて、現在のシーンを支えている。

 そして、そこには、無数の先進的アーティストのエネルギーが隠れている。

 

【教訓】
現役のスターも、先達たちの足跡を知ることは必要である。


※文中では敬称は略して表記させていただきました。

 

今泉雅史(音楽・落語プロデューサー、プランナー)
1973年広告会社入社。コピーライターとして企業広告、日産チェリー等を手がける。1975年、ソニーミュージックエンターティンメント(当時はCBSソニー)に入社。洋楽宣伝、大阪営業所販促を経て1980年より邦楽プロデューサー。主な担当アーティストはHOUND DOG(ハウンドドッグ)、PSYS(サイズ)、ZELDA(ゼルダ)、すかんち、the東南西北、溝口肇、白井良明(ムーンライダーズ)など。2007年、カタログマーケティング中心のソニーミュージックダイレクトに移動、YMO、シーナ&ロケッツ、戸川純、等アルファレーベルを担当、2009年から伝統芸能、落語を中心のレーベル、来福を立ち上げる。主な作品、古今亭志ん朝、柳家小三治のDVD全集。春風亭昇太中心の新作ユニットSWA(すわ)のCD.DV D等。2012年退職。フリープロデュサーとして、落語イベント‘’渋谷に福来たる"等のの企画、制作に携わる。