エンタメパレス

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音楽プロデューサーの今だから言えること【HOUND DOG (ハウンド ドッグ)】(連載3)

はじめに。

元ソニー・ミュージック・エンタテインメントのプロデューサー今泉雅史です。

「最近のヒットチャートはわからない」「音楽の分断化が進み国民的ヒットがない」「昔の曲がいい、今の曲がいい」とか言い争うのはよしとしても、好きなジャンル以外に関心が無いのは、困ったものだ。

 いま、アイドルの世界では、ジャニーズ問題が大きいが、Jポップスの世界ではアーティストがダイレクトにSMSから発信するスタイル、今までのメーカー、プロダクションの枠を取り払ったミニマムな展開からの自然発生的なヒットの時代を迎えている。

 自主制作を超えた新しい配信と、サブスクの時代に、あえて70年代から90年代のアナログからCDへの転換を最大トピックとする音楽業界の派手でキラキラした世界だけでない、約30年間、業界で働いた当事者としてリアルにもう一つの事実を伝える事で、これからの音楽やクリエイティブを担う、担いたいピープルに、温故知新というか、ちょっとしたヒントになればという気持ちから書き記したものです。


■ライブバンドとして全国を走り回って人気絶頂のHOUND DOGだが、CDセールスがいまいちだった訳とその処方箋とは⁈

ハウンドドッグ ベスト WQCQ-172

ハウンドドッグ ベスト WQCQ-172

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 正統派ロックンロールバンドして、ライブを中心に、着実に動員を増やし人気を不動のものとした仙台出身の6人組“HOUND DOG "(ハウンド ドッグ)。力強いロックボーカリストと、2人のメロディメイカーを擁する。先輩ディレクターから引き継ぎというカタチになった訳だが、セールス的には、ややキツいという感じだった。

 その訳を分析してくれたが、もうひとつ納得出来なかった。だから自分なりに考えてみた。ライブは盛り上がる、ボーカルはシャウトを含めて強烈、曲のクオリティは高い、演奏技術もある。という事は詩の問題か、ココロに響く言葉がないって事だ。だから決定的大ヒットが無いんだなぁと、結論づけた。

 それまでは歌詞はカリスマ的ボーカリスト大友康平が一手に引き受けていた。素直で真っ直ぐなところもあるのだけれど、どうしてももっと強い言葉が欲しかった。
 そこで決めた。次のアルバム用のデモの中からキーボード担当・蓑輪単志の1曲に白羽の矢を立て、作詞家を安全地帯や中川勝彦等を手掛けた松尾由紀夫に依頼した。パッションと、ロジカルがブレンドされたインテリジェンスに溢れた世界が好きだったからだ。

 しかし、予想通りプライド高いボーカリストの反発は強烈だった。他人の詩では絶対に歌わない!と。じゃあ本人の詩と、松尾氏の詩でどちらも歌ってみようと提案、渋々ながら応じて、吹き込んでみた。そして、メンバーとスタッフにどちらがココロに響いたか、率直な意見を聞いてみた。

 その結果、生まれたのが“f f ”(フォルティシモ)だ。結果的最大のヒット曲になった。この後、日清のカップヌードルのCMとして採用、文字通り最強のラブソングとして花開いた。

SPIRITS!

SPIRITS!

  • アーティスト:HOUND DOG
  • ソニー・ミュージックレコーズ
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   そして“f f”を含む最強のアルバム''Spirits!"も生まれ、最強のロックバンドとしての疾走が始まり、西部球場10 DAYS公演に繋がっていった。

 その後、ハウンドドッグは解散したがメンバーはそれぞれのフィールドで活躍している。大友は俳優としても活躍の場を広げた。

 

【教訓】真摯に楽曲と向き合ってヒットするには何が足りないのか、詩なのか、曲なのか、歌なのか、アレンジなのか、それ以外なのかクールに判断しテコ入れする事。あくまでも客観的にね。

 

※文中では敬称は略して表記させていただきました。

 

今泉雅史(音楽・落語プロデューサー、プランナー)
1973年広告会社入社。コピーライターとして企業広告、日産チェリー等を手がける。1975年、ソニーミュージックエンターティンメント(当時はCBSソニー)に入社。洋楽宣伝、大阪営業所販促を経て1980年より邦楽プロデューサー。主な担当アーティストはHOUND DOG(ハウンドドッグ)、PSYS(サイズ)、ZELDA(ゼルダ)、Scanch(すかんち)、the東南西北、溝口肇、白井良明(ムーンライダーズ)など。2007年、カタログマーケティング中心のソニーミュージックダイレクトに移動、YMO、シーナ&ロケッツ、戸川純、等アルファレーベルを担当、2009年から伝統芸能、落語を中心のレーベル、来福を立ち上げる。主な作品、古今亭志ん朝、柳家小三治のDVD全集。春風亭昇太中心の新作ユニットSWA(すわ)のCD.DV D等。2012年退職。フリープロデュサーとして、落語イベント‘’渋谷に福来たる"等のの企画、制作に携わる。