エンタメパレス

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マ・ドンソクの人間的な魅力(スターダム)から目が離せない!

  マ・ドンソクの新作『狎鴎亭(アックジョン)スターダム』が9月8日 (金)より公開される。日本で人気の韓国スターのナンバー1はマ・ドンソクと断言しても間違いではないだろう(言い過ぎ?)。

なにしろ名声は世界に轟き、アメリカ映画『エターナルズ』(2021)ではあのアンジェリーナ・ジョリーの夫役をいつものように寡黙に力強く(拳!)演じていた。

 また近作『犯罪都市 THE ROUNDUP』(2022)では、海外で暗躍する残虐で最凶の悪のグループを鉄拳でスカッと見事に叩きのめしてくれたマ・ドンソク刑事だが、今回は意外な側面を見せてくれる。

 

『狎鴎亭(アックジョン)スターダム』

2023年9月8日 (金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋 他 全国順次公開

監督・脚本:イム・ジンスン『守護教師』

出演 マ・ドンソク 『犯罪都市 THE ROUNDUP』『新感線 ファイナル・エクスプレス』 チョン・ギョンホ「イルタ・スキャンダル〜恋は特訓コースで〜」 「賢い医師生活」 オ・ナラ 「SKY キャッスル 上流階級の妻たち」『ジャンルだけロマンス』※『』内は映画 「」内はドラマ

 2022 年/韓国/韓国語/111 分/カラー/シネスコサイズ/原題:압꾸정(狎鴎亭)

(C)2022 SHOWBOX, BIG PUNCH PICTURES, HONG FILM AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.  

 

 本作でマ・ドンソクが扮するのはソウルを代表するファッショナブルな街・狎鴎亭を練り歩く大立者、と思わせるオープニングだが、どうやら今回のマブリーは実は大立者などではなく、四方八方にコネクションはあるものの、口八丁手八丁の何でも屋さん! 街の口利き屋というのか、まずこの存在がめちゃ理不尽で面白い。

 地元ヤクザの親分は後輩らしくて、その親分になんの根拠もなく大きな顔で命令口調。ヤクザのほうも年功序列に従ってマブリーに逆らわない。

 時代背景は2000年代前半だ。ド派手な服を着たマブリーが(髪も赤く染めていている)、狎鷗亭を闊歩する生き生きとした描写がまず素敵だ。いつもの寡黙な刑事とは180度転換した役だが、賑やかでうるさくて相手をウンザリさせる暑苦しさが見た目からも伝わってくる。そこはまさにマブリーの存在感と演技力だ。

 物語は、ライバルの悪巧みによって医師免許を剝奪され失意の天才美容外科医の優男(ドラマ「イルタ・スキャンダル」が日本でも大人気のチョン・ギョンホ!)と手を組んだマブリーが、当時伸び盛りだった「美容整形業界」に殴り込んで大儲けを企むがさて? というストーリーだ。

 アメリカ映画的に言うと一種のバディムービーで、コンゲーム的要素もある騙し騙されの起伏あるストーリーに最後まで目が離せない展開だ。

 ※しかしデジタル先進国の韓国が、たった10数年前まで札束をオフィスに積んでおいたなんて今の若い観客には驚きだろう。一方、韓国の美容整形に関してはすっかり定着した感がある。



 さて、「マブリー」は『新感染ファイナル・エクスプレス』で人気爆発以降、流布したマ・ドンソクの愛称だが、僕は以前から個人的に「マドちゃん」と呼んでいたので以下はその呼称で。

 

 最初にマドちゃんに着目(瞠目かも)したのは2012~13年頃だ。

 『隣人』という韓国お得意の猟奇殺人系ホラー映画での助演ぶりだった。

 キム・ユンジンと名子役キム・セロンが主演。殺人鬼が住む団地が舞台のこの陰惨な映画で、マドちゃん扮するヤクザもんの頼もしさ、逞しさはほんと素晴らしかった。ヤクザでもいい、こんな人がいたら殺人鬼にだって勝てると。ウチのマンションにも彼がいてほしいと思った(!?)。

 ※マドちゃんとキム・セロンは『守護教師』(2018)で再び共演。

 2013年、性接待を強要された新進女優の自殺事件を扱った『おもちゃ〜虐げられる女たち〜』に出演。事件を隠蔽しようとする権力側に戦いを挑むしがない配信系ジャーナリスト役を、マドちゃんは誠実さと温かさを感じさせる役作りでこれも好演。この2本の映画で「この人、いい!最高!」と気に入ってしまった。

 最近、この『おもちゃ』を久しぶりに見返したが、マドちゃんはいかついことはいかついが今の半分くらいの身体の厚みで(かなりスマート!?)、ジャーナリストと言われても格別不自然ではない感じだ。

 2013年あたりは、パニック映画『FLU 運命の36時間』などで悪役も並行して演じていたが(まあ普通に見れば悪相だし)、やはり日本でも人気爆発した『新感染ファイナル・エクスプレス』、<god>出身のユン・ゲサンの悪役ぶりが光った『犯罪都市』(2017)以降、マドちゃんは基本、正義の味方だ。

 鉄拳のイメージとは程遠いマドちゃんの演技と言えば、オムニバス映画『結婚前夜 〜マリッジブルー〜』(2013)で演じた情けない感じの花屋の店主、キム・ヘスが落ち目のスター女優を演じた『グッバイ・シングル』(2016)の友情厚いスタイリスト(!)役がある。

 このあたりのコメディ系、ペーソス系の演技は本新作にも通じるマドちゃんの魅力(スターダム)だ。正直、短いセリフ、素早い動きなどスクリーンにマ・ドンソクが出てくるだけでボルテージが上がる。アメリカ映画で言えば全盛期のクリント・イーストウッドやシルベスター・スタローン、シュワちゃんと並ぶといえるだろう。そこにトホホ要素が加われば鬼に金棒!?

 ということでマ・ドンソクという俳優の存在感と魅力は狎鷗亭なんて狭い地域ではない、世界のスターダムに上り詰めてしまったといっておきたい。

 

柚木 浩(コミック編集者/映画ライター)
『香港電影城』シリーズの元編集者&ライター。
香港映画愛好歴は、『Mr.Boo!』シリーズを日本公開時に劇場で見て以来か。
火が点いたのは『男たちの挽歌』、『誰かがあなたを愛してる』、『大丈夫日記』、『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』あたりから。
好きな香港映画は80年代後半~90年代前半に集中しているが、2000年以降のジョニー・トー作品は別格。邦画、洋画、韓国映画、台湾映画も見る。ドラマは中国時代劇、韓国サスペンス系。