エンタメパレス

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『さらば、わが愛/覇王別姫』4K版で人気再熱するレスリー・チャンの魅力を対談で考察(パート2)

4K版で蘇った『さらば、わが愛/覇王別姫』(93)『ブエノスアイレス』(97)の上映で主演レスリー・チャンの評価が改めて急上昇しています。そこでエンタメパレスでは長年のファンである島津美穂さん(元写真家)とインタビュー経験のある村上淳子さん(映画ジャーナリスト)に、レスリーの魅力と再熱する理由について語っていただきました。

 

 

パート1はこちらから。

https://en-pare.com/entry/2023/08/05/140000

BL作品の先駆け『ブエノスアイレス』でも役になり切って熱演

島津 『ブエノスアイレス』(97)はウォン・カーワァイ監督が何がしたかったのかよくわからなくて。ファイ役トニー・レオンのヘタレ攻めが痛くてみていられない。ウィン役レスリーはゲイの役になりきっていましたが、トニーが吹っ切れてなかった感じで恋人に見えなかった。腐れ縁とはいえあんなに甲斐甲斐しく世話をしていたのに、おいていったウィンに心を残す事はなかったのだろうか、と思ってしまう。第3の男チャン(チャン・チェン)が出てきてから、違うストーリーのようでした。
村上 トニーはクランクイン前、監督から同性愛の役を演じると聞いてなかったという話だから。私はレスリーの相手の愛を試すようなわがまま放題の激しい愛とトニーの振り回されぶりに衝撃を受ました。男同士のリアルな愛を描く作品を観たのは初めてだったし。『ブエノスアイレス』は作品としては今のBLブームの超先駆け。LGBTという言葉もなかった 26年前にあの世界観を出してきたのは驚異的だった。

 

島津 『ブエノスアイレス』のロケのとき レスリーはバクテリアに感染して死ぬ思いをしたんです。撮影が延びて自分のコンサートツアー『跨越97演唱會』があったので、ギリギリまで滞在したけれど離脱せざるをえなかった。 その後、戻って追加撮影したそうです。
村上 ウォン・カーワァイは撮影を延ばして追加予算を引っ張ることがよくあり、出資したところは困惑するって噂されていた。あといくらあったら完成させると出資者に言ってくるとか。ジャッキー・チュンを取材したときに聞いたのが、何のアドバイスもなしに何十回も同じシーンをやらせる。「こうしてほしい」と具体的に言われたほうが俳優はやりやすいのに何も言わず「もう1回」と何度もテイクを重ねるそうで、温厚な彼もお怒りモードでした。
島津 トニーはウォン・カーワァイ監督とは強い絆があるから、無理な撮影でも頑張れるんでしょうね。

 

ステージではアーティストとして魔性のカリスマ性を披露

写真・島津美穂


村上 それにしてもレスリーのコンサート『熱情演唱會(通称パッションツアー) 』日本公演(00年)は衝撃的だった。歌はもちろんだけど、ゴルチエの衣装、パフォーマンスが幻想的で。お団子ヘアにしていたのをかんざしを外してサラーっと髪が流れたセクシーさにゾクゾクした。
島津 私にとっては『跨越97演唱會』が最高の思い出。ヒット曲メドレーで「カモン!」と煽ってレスリーが観客を呼び寄せたときに、私は駆け寄っていちばん前でタオルを差し出したら汗を拭いて戻してくれた。そのドーラン付きのタオルはお宝です。
村上 しっかりファンサもしてくれてたんだね。その観客呼び寄せのとき、私はあまりの熱狂に驚いて固まってたんだけど、ふと通路を見たら靴が片方落ちてたのが忘れられない。靴が脱げたのも忘れさせるレスリー恐るべしだと思いました。(笑)
島津 一部のファンの間では「ファンたる者、魂を捧げてレスリーのエナジーにしてもらわなくてはならない」と言われていました。だから、レスリーは若いままだったのです。(笑)

 

村上 辛いことを聞いてもいい?レスリーの他界を知ったときのこと。
島津 日本で報道される前に香港の新聞記者の友人から連絡がきて、「落ち着いて聞いて」と知らされて、最後に彼から「後を追わないでね」と心配されました。信じられない気持と大ショックでしばらくは抜け殻のようになっていました。
村上 私はニュースで知ったんだけど本当に信じられなかった。「どうして?」と。その後、鬱病だったと知ってなんかもうたまらない気持になった。香港で『もういちど逢いたくて/星月童話』(99)の記者会見のとき、会見が終わったあとも殺到するマスコミに怯える常盤貴子の肩を抱いてしっかりガードして去っていったときのジェントルな姿が蘇ってきた。インタビューしたときレスリーからお礼のカードをもらったことも忘れられない。これまでハリウッドやアジア圏の俳優にインタビューしてきたけど、取材時間がタイトでサインや記念写真に応じてる時間がないからと、わざわざサイン入りのカードを用意して取材陣にプレゼントしていたのはレスリーだけでした。
島津 細やかな気配りもできる人だった。あのとき、2003年4月はSARSで香港に渡航できずお葬式にも行けなかったから余計に辛かった。でも、今はレスリーは歳を取らないのが世間に知られないよう、別の世界で過ごしているのだと思っています。

 

村上 でも島津さんがレスリーに堕ちるきっかけが『男たちの晩歌』って意外。
島津 出てきたとたん心を奪われました。初めは子犬のように兄に絡む姿が無邪気でかわいくて…。でもラストの人質交換のときに、凄い眼差しで睨んでいて子犬だとおもったら実は狼でした。エンディングのレスリーの歌、ハスキーがかった声に感無量でした。
村上 私も初めてレスリーを観たのは『男たちの挽歌』だったけど、可愛い弟にしか見えなくて、チョウ・ユンファのカッコ良さに目がいってました。
島津 当時、周りにもレスリーにハマった人は皆無でなぜレスリー?と何度も言われました。その年の6月に東京国際音楽祭で来日して「冬のリビエラ』をアラン・タム、森進一と一緒に歌ったのをTVで観て、その時、レスリーが歌った自身の曲は後に代表曲の一つとなる『無心睡眠』でした。直ぐに横浜中華街にあるレコード店に行って、この曲が入っているアルバム『Summer Romance』を買いました。完全に堕ちた後は、香港の信和中心で同士がいないのでグッズ独り占めでした。
村上 写真やグッズなどがどっさりあった香港明星ショップ「信和中心」懐かしい〜!漁るのが楽しみだった。そんな島津さんにとってお気に入りのレスリーの作品は?
島津 やっぱり堕ちるきっかけとなった『男たちの挽歌』(86)は外せません。『君さえいれば/金枝玉葉』(94)『ダブルタップ』(00)もお気に入りです。もちろん『覇王別姫』(93)も大好きですが、新たなレスリーをみせた『白髪魔女伝』(93)も好きです。あと、香港の映画館で観た『大富之家(幸せはイブの夜に)』(94)は忘れられない作品。レスリーが長髪、無精ヒゲで出ているので、香港では酷評されていましたが、ファンはこのロバート役を好きな人が多いです。ラストで髪を切り整え、ヒゲも綺麗に剃った姿で現れた時には映画館中に『好靚仔呀ー!』(カッコいい!)と歓声があがりました。きっと本人は面白がって演じた役柄だと思います。
村上 落差の激しさでよりイケメン度が増した!私は順不同でベスト3は『君さえいれば/金枝玉葉』『覇王別姫』『ブエノス・アイレス』ですね。
島津 『金枝玉葉』では、レスリーのチャーミングさと戸惑いぶりが印象的でした。幸運にもピーター・チャン監督にお話を伺う事が出来ました。「皆んな、レスリーを特別な存在として見てしまっている。だから普通の男性を演じさせてみたかった」というような事を仰っていました。作品自体も良作ですが、ファンにとっては映画のなかでレスリーの歌が聴けたのが貴重なんです。

写真・島津美穂


村上 あの名曲、主題歌『追』口ずさみたくなる。
島津 あの頃、歌手活動を引退していたときで、レコード会社と契約が切れていたんです。香港返還もあって一時、カナダへ移住して、また戻ってきてロックレコードと契約しました。
村上 当時、香港の書店に『月刊・移住』とか海外移住に関する雑誌がずらり並んでいてびっくりだった。お金持ちの友人2人もカナダに移住した。返還後、中国化されるのは間違いないと。今の香港を見たら友人たちの判断は正しかったと痛感する。
島津 レスリーはカナダでは麻雀しかやることがなくてつまらなかったとお戻りになった。
村上 ハハハ。でも、戻ってきてくれたからその後の名作が生まれたわけで。改めてレスリーの魅力を問われたら?
島津 そのとき望まれる、求められていることが瞬時にわかり、最大限対応できる。映画でもバラエティでもコンサートでも。長年、追いかけてきてそこが凄いと感動します。私にとってレスリーの顔、声、演技は唯一無二。存在自体が尊い。
村上 推し続けられる存在がいるって幸せですね。
島津 家にレスリーのCD、DVD、ブロマイド、雑誌などレスリーに関するものが山のようにあるのですが、誰かが香港明星資料館を作ってくれたら寄付したい。カフェでもいいです。とある香港カフェでは店主こだわりのフライヤーやポスターが飾ってあるそうですが、もっと大々的に香港明星茶寮をやってほしいです。
村上 エンタメパレスさんに是非企画していただき香港カフェで「レスリー展」できたらいいですね。

 

島津美穂
元写真家 アジア芸能を主流に活動。香港の新聞「東方日報」「太陽報」で日本芸能の取材、撮影を担当。レスリーの推し歴36年。「最初の10年間はファンとして突っ走った。次の10年間はメディアとして幸運にも取材ができた。続く10年はレスリーのことを伝えるために自分の存在があった。今はレスリーを自分のためにまったり楽しみたい」と語る筋金入りの大ファン。

村上淳子
映画ジャーナリスト、海外ドラマ評論家。雑誌『anan』のライターとして活動中に香港エンタメに目覚め「香港電影城」(小学館)シリーズに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。好きな香港俳優はチョウ・ユンファ、レスリー・チャン、トニー・レオン、イーキン・チェン、ニコラス・ツェー。

 

『さらば、わが愛/覇王別姫 4K』

7/28(金)角川シネマ有楽町、109シネマズプレミアム新宿、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次上映。

配給:KADOKAWA

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