このところ香港では香港版『おくりびと」の『ラスト・ダンス(破・地獄)』の超級ヒットが大話題です。道教の葬儀にスポットを当て、死から生を考えさせる本作は心に沁みるストーリーで、日本公開が待たれる秀作。
同じく今年の旧正月(2月9日)に公開され大ヒットした『盗月者 トウゲツシャ』も日本公開が待たれていた作品なのです。
2010年、東京・銀座の貴金属店で起きた高級腕時計約3億円の大量窃盗事件の実行犯が香港人だったことに着想を得て描かれた本作は、香港と東京を舞台に繰り広げられるクライムアクション。
有能な時計修理工のマーは、修理した偽造時計を売ったことがバレて、高級時計の窃取チームに入ることを強要されます。チームに与えられたミッションは、東京・銀座の時計店に保管されている画家ピカソが愛用していた時計。下調べのために東京にやってきたチームは、時計が保管されている金庫に、人類初の月面着陸の際に使用された世界で唯一の時計「ムーンウォッチ」があるのを発見。この予想外の事態が日本の大富豪やヤクザも巻き込んだ争奪戦へと展開していくのです。
日本の遺品整理業者からアンティークの時計を買い取り、その部品を使い偽造高級時計を作るなど、世界的に富裕層マニアが多く加熱する高級時計マーケットのリアルな闇の描写に驚かされます。
主役の時計修理工・マー役にはイーダン・ルイ。母親と二代に渡り鍵士で窃盗チームに入るヤウ役にアンソン・ロー。同性愛の偏見を減少させたと評価されるほど人気を呼んだ香港版『おっさんずラブ』で主役を演じたイーダン・ルイと相手役のアンソン,ローが揃って出演。表向きは時計店だが、裏で盗難品の取引きを行うロイ役にはギョン・トウ。
香港の友人が“SMAP”に例えるほど歌番組からバラエティ、ドラマ、映画まで幅広く大活躍の12 人の男性アイドル・グループ「MIRROR 」 そのメンバー3人、イーダン、アンソン、ギョンの出演が大ヒットの要因のひとつには違いないのですが、なんといっても脚本がいい。
現実の事件をエンタメ作に昇華させる手腕に優れる韓国映画にも、全く引けを取らない面白さ。現実に起こった事件をスリリングに、コミカル要素も入れ、香港が得意なアクションも加え、最後まで手に汗握りっぱなしのストーリーを作り上げたところが見どころのひとつ。
火薬多めの派手なアクションとジーンとさせる場面や台詞のバランスが絶妙。最後のネタばらしではニンマリしてしまいます。
スカッとする香港エンタメ作が大好物な人から時計マニアにも刺さる作品です。
◇ストーリー
アンティーク時計の修理に天才的な能力を持つ時計修理工のマー(イーダン・ルイ)は、老舗時計店の二代目店主であり裏では盗難時計売買の顔を持つロイ(ギョン・トウ)に自身が修理した時計を偽造販売したことがばれ、ある高級時計の窃取を強要される。狙いは、東京・銀座の時計店に保管された、画家ピカソの死から50年後に発見された彼が愛用していた3つの時計。 集められたチームは、リーダーのタイツァー(ルイス・チョン)、爆薬の専門家マリオ(マイケル・ニン)、鍵師のヤウ(アンソン・ロー)、そしてマー。彼らはオークションが開催される東京へと飛び、下調べをして銀座の時計店に侵入したが、ピカソの時計が保管された金庫の中に、 偶然にも月に到達した唯一の時計・ムーンウォッチを発見してしまう。 予想外の展開にマーたちの運命は大きく狂い始め、日本の大富豪で裏でやくざと繋がる加藤(田邊和也)をも巻き込み、チームに危険が迫る。敵味方が交錯する中、4人の男たちは命を賭けた大逆転のゲームを開始する!
『盗月者 トウゲツシャ』
11月22日(金)より、渋谷HUMAXシネマ、池袋HUMAXシネマズほか全国順次ロードショー
製作・監督・脚本:袁剣偉(ユエン・キムワイ) 出演:盧瀚霆(アンソン・ロー)、呂爵安(イーダン・ルイ)、、張繼聰(ルイス・チョン)、白只(マイケル・ニン)、袁富華(ベン・ユエン)、邵美君(ルナ・ショウ)、田邊和也、笠原竜司 /特別出演 姜濤(ギョン・トウ) 原題:盜月者 The Moon Thieves 2024年/中国(香港)/カラー/ビスタサイズ/107分 配給:サロンジャパン、ポレポレ東中野 『盗月者 トウゲツシャ』公式サイト:https://pole2.work/tougetsusha/ X公式 @tougetsusha
村上淳子(むらかみあつこ)
映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家
雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。