3月20日に行われた香港映画のフォーラムを取材してきました。当日20分前にフィルマート内の会場に行ってみると、えっ、来てるの私だけ! せっかくなので2列目中央に陣取る(1列目は関係者席)。開始5分前から急にみんな入ってきてほぼ満席に。
スピーカーの皆さんは:
翁子光(フィリップ・ユン)氏『お父さん』の監督・脚本
錢小蕙氏『お父さん』のプロデューサー
陳茂賢(アンセルム・チャン)氏(『ラスト・ダンス』の監督、プロデューサー)
鄭緯機氏(『ラスト・ダンス』の脚本)
の4名に、映画評論家の登徒氏が司会でした。
フォーラムは1時間半あり、いろいろな話が出ましたが、まずは『お父さん(Papa爸爸)』のフィリップ・ユン監督が「映画が成功した理由の1つは劉青雲(ラウ・チンワン)が主演であること。ギャラが8桁クラスの彼が普通では考えられない(低めの)ギャラでこの役を引き受けてくれた」と語ったのが印象的でした。
また、香港人の観客の共感を得るために、『お父さん』は普段の香港の生活に即した、誰もが「そうそう、こういうことある」と思える日常ディテールを多く入れて描いたとのこと。そして実話に基づいているため、劉青雲の役のモデルとなった実際の男性と何度も話をして脚本を作り上げていったそう。
さらに監督は「スニーカーは発売後、とても人気が出てオークション等で値が急上昇するものもある。発売してみないとどのデザインが人気か分からない。映画も同じで、撮って公開してみないと受けるかどうか分からない。一種の賭けであり、撮らせてくれたプロデューサーの錢さんに感謝している」と語りました。
香港映画については「アクションやコメディが多いが、いろいろな映画があっていい。例えばフィリピンやインドネシアから来ているヘルパーさんを描く映画、お年寄りが主人公の映画、ホラー映画、SF映画。香港人が考えたこともないような映画もいい。それで香港映画全体に厚みが出て、観客も目が肥えていってくれればと思う」と熱く語ってくれました。
アンセルム・チャン監督(左)と フィリップ・ユン監督(右端)
一方のアンセルム・チャン監督は『ラスト・ダンス(破・地獄)』について、「以前、コメディ映画を撮った私が、香港2大喜劇スターである黄子華( ダヨ・ウォン)とマイケル・ホイを起用して、コメディじゃない映画を撮る。普通に考えてイカれてる」と笑いを交えてトーク。
「大きな挑戦だったが、葬儀や生と死という取っつきにくいテーマの作品において、一般の人に興味を持ってもらうには、この2人が必要だった」と話しました。また、英皇(エンペラー)の楊受成会長には「撮る以上、必ずいいものを撮ってくれよ」と言われたそう。
監督は、親しかった祖母をコロナ禍の期間に亡くし、人生の意義や生きる意味を見失い、虚無感に襲われたとのこと。「悲観的になり、この世に生まれた意味はあるのか、死はその人の存在を無にするのか、などと考え続けた。そしてある時、ああこれをテーマにして映画を撮ろうと思った」そうです。
もう1つ重要なテーマとして監督が挙げたのが「生まれてきた家庭」。「どの家に生まれるかは選べない。そして家庭環境はその人の性格や生き方に大きく影響する」とのこと。映画の内容に結び付くテーマですね。
マイケル・ホイに関しては、体のことを考えて1日の撮影時間を決めてタイマーをセットしていたとのこと。一方でマイケルは役に真剣に取り組み、危ない動作も自分でやると主張。燃える火の上を飛ぶ場面や、車いすで倒れるシーンなども自分で演じたそう。「もちろん、絶対安全なように念入りに準備しましたよ」とのこと。さらに、「マイケルは子供のような可愛さを持った方でした」と語った。
書き切れませんが他にもいろんな興味深い話をたっぷり聞けた有意義な1時間半でした。翁監督と陳監督、次回作に関する話はなかったけど、どんな作品を撮ってくれるか楽しみです。
持有淑子(もちありとしこ)
フリーライター/翻訳
香港が好きで、返還前・返還後の両方で在住経験あり。香港をはじめ中華圏の映画・ドラマ、欧米の映画・ドラマ、観劇も好き。共著「香港電影城」シリーズ。今は「慶余年2」を心待ちにしています。