
出演:トン・ワイ、テレンス・ラウ、フィリップ・ン、セシリア・チョイ他 監督:アルバート・レオン&ハーバート・レオン 2024│シネスコ│5.1ch│114分│香港│広東語│字幕翻訳:鈴木真理子│配給:ツイン 公式X:@Stuntman_filmJP ©2024 Stuntman Film Production Co. Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.
※7/25(金)より新宿ピカデリー ほか全国公開!
本年1月公開後、大ヒットを記録し、一大ブームを巻き起こした『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』は、スクリーンにぐいぐいと観客を引き込み、主人公たちに感情移入させ、まるで自分がその場に居合わせたような錯覚を私たちに与えてくれる、胸躍る素晴らしい香港アクション映画だった。
古参の香港映画好きとしては、出演した俳優たち(テレンス・ラウ、古天楽、フィリップ・ンetc)が日本の各種映画情報誌の表紙を飾り、一般女性ファッション誌の表紙にまで登場し、新しい香港映画ファンを獲得しつつあることに驚きを禁じ得なかった。
かつて80年代、ジャッキー・チェン、サモハン、ユン・ピョウのビッグ3のアクション映画を嚆矢とした日本の香港映画ブームを思い出した。
チョウ・ユンファ&レスリー・チャン主演『男たちの挽歌』から始まる魅惑の香港ノワール映画群、キョンシーブームを巻き起こした『霊験道士』シリーズ、サミュエル・ホイ主演『悪漢探偵』シリーズ、レンタルビデオショップにジョイ・ウォン棚を構築させた『チャイニーズ・ゴーストストーリー』シリーズ、ジェット・リー主演の『ワンスアポンアタイム』シリーズ…うーん、挙げ始めたらきりがない。
これら香港映画群はノワール、カンフー、ゴースト、コメディ、実録、スパイ物などなど、ジャンルは多岐にわたるが基本、「香港アクション」が見どころだった。とんでもないところから(時計台とかデパートの電飾とか)飛び降りたり、歩道橋から走るバスの屋根にジャンプしたり、引火し大爆発する病院の上層階からロープ1本で飛び出したり、悪霊と空中で格闘したり、殴られ、ガラスのテーブルに半回転しながら落ちたり、アクションシーンにアイディア満載の、マンガみたいな(危険で命知らずな)動きが詰まっていて、観客をとにかく飽きさせなかった。
ドキュメンタリー映画『カンフースタントマン 竜虎武師』(2021)でチン・カーロッがこう語っている。「なぜ当時の香港アクション映画がハリウッドを凌駕したのか? それは『スタントマン』です」。
そう、まさに世界に誇る香港映画全盛期を支えたスタントマンたちと、形を変えながらも現在に受け継がれた武替道(スタントの道)の心意気を熱く描いたのが本作『スタントマン』である。
監督はスタントマン&俳優として長年アクション映画の現場で活躍してきたアルバート・レオン&ハーバート・レオン。香港アクション映画界を知り尽くしたスタッフと出演者が集結した作品だ。
って、前置きが長いですね。つい興奮してしまって。
本作で注目すべきはまず、『トワウォ』の人気スター、テレンス・ラウとフィリップ・ンが重要な役で出演していることだ。2人ともぴったりの役柄で好演していて、彼らの魅力をこの作品でも十分堪能できるだろう。そして香港を代表するアクション監督であり、スタントマン出身でもあり、俳優でもあるトン・ワイが、自分と等身大を思わせる主人公を見事に演じていることだ。

本作のあらすじを公式サイトから抜粋してみよう。
80年代に活躍した伝説のアクション監督サム(森)<トン・ワイ>は、撮影中の事故の責任を負って業界を去り、今は小さな整骨院を営む。
ある日、かつての盟友である老監督から、新作のアクション監督を打診される。最後に一緒にやりたいという友人の願いを受け入れ、最近知り合った若く熱意のあるスタントマンのロン(龍)<テレンス・ラウ>を助手にするが、現代の映画撮影では昔のやり方は通用せず、かつてサムの弟子だった主演俳優のワイ(威)<フリップ・ン>や制作陣は、全てを犠牲にしてリアリティを追求するサムのやり方に反発する。
さらに忙しさのあまり、結婚式を控える娘チェリー<セシリア・チョイ>との関係性も悪くなっていく。果たして、映画は無事に完成するのだろうか…

本作はいわゆる「バックステージ」物といえるだろう。
冒頭から80年代香港映画の(『ポリス・ストーリー/香港国際警察』的な)世界にタイムスリップしたようなショッピングモールでのアクションの映像と劇音が流れる。このシーンで僕は思わず画面に向かって乗り出してしまった。掴みはOKだ、
続いて撮影中の場面。痛ましい、しかし、ともすればありがちなミスで大けがをするスタントマンが描かれる。アクション監督サムの責任は大きい。よりによって同時にサムの娘が発熱して入院という状況を描き、仕事と家庭を同時に失いそうなサムの苦悩を描く導入部は観客の心をグッと掴むだろう。
そして数十年後。時は現代だ。
小さな整骨院で生計を立てるサムの質素な日常風景が描かれる。
かつてのスタントマン仲間のマー・ヤウの追悼パーティに出かけたサムは、長年のブランクで完全アウェー状態だ。会場には新旧のスタントマンや監督たちが集まっている。ほらあれが「人命軽視」のスタントマンだ。奴の現場はめんどくさいのでスタントマンが嫌がった、などなど陰口をたたかれる。ここから続く数シーンで「香港映画は死んだ」という言葉が何度か出てくる。
アウェーのパーティ会場を抜け出し、ビクトリア湾のプロムナード前でブルース・リー像を1人見つめるサム、というシーンがある。ここでかつての盟友である老監督から20数年ぶりの最後の監督作でアクション監督を引き受けてくれないかと打診される重要なシーンだ。
ご存じの人も多いかと思うが、トン・ワイは『燃えよドラゴン』(1973)に出演し、ブルース・リーに後世に残る名セリフ「Don’t think. Feel」(考えるな、感じるんだ)と言われる少年役を演じている。まさに半世紀の時を超えて「香港アクション」の精神がシンクロする感動的な場面だ。
サムの整骨院の壁には、彼の代表作『禿鷹行動』のポスターが貼ってある。ふとしたきっかけで知り合った若いスタントマン志望のロン(テレンス・ラウ)がポスターを見て、『プロジェクト・コンドル』は香港映画の名作だと言う。小さいころレンタルビデオで見て、列車に跳び乗る場面を真似て、二段ベッドの上で兄と跳びまわってた、と興奮気味に語るロンをにこやかに父親のように見つめるサム。香港アクション映画賛歌的な心温まるシーンだ。
付記しておくと、『禿鷹行動』は80年代の金字塔的なアクション大作『イースタンコンドル 東方禿鷹』(1987 サモハン監督・主演)を想起させるタイトルだ。
『トワウォ』のアクション監督・谷垣健治氏にインタビューした際に、『トワウォ』のフィリップ・ンのなんでもあり、やりたい放題の無敵ぶりは、『イースタンコンドル』でベトナムの将軍に扮したユン・ワーの狂気の暴れっぷりを思い出すと語っていた。この映画はユン・ピョウも倉田保昭もラム・チェンインもジョイス・コウも出演しているオールスターキャスト作品である。

筆者が今回、本作を見て最大の収穫だと感じたのは役者トン・ワイだ。
トン・ワイといえば『男たちの挽歌』を始めとするアクション監督としての偉大なキャリアが思い浮かぶ。香港アカデミー賞アクション監督(最佳動作設計)賞を受賞した『ダウンタウン・シャドー』(1998)、『パープルストーム 紫雨風暴』(1999)、『アクシデンタル・スパイ』(2002)、『孫文の義士団』(2010)などなど、香港映画を代表する作品のアクション監督である。
京劇の学校<春秋戯劇学校>(ここでラム・チェンインやマン・ホイやジョン・ローンらと同期)出身のトン・ワイが70年代80年代の役者として活躍する映画を筆者はあまり見ていない。
数少ない中で強く印象に残っているのはジョン・ウー監督の『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』(1992)である。『インファナル・アフェア』に先駆けて潜入警官を好演したトニー・レオンの印象も強いが、チョウ・ユンファ刑事の子飼いの、しがない情報屋を演じたトン・ワイの悲しいチンピラ演技がリアルだった。ユンファがトン・ワイの年老いた母を施設に入れてあげたり、刑事と情報屋といっても、ユンファらしい情を感じさせる関係性だ。目つきとか仕草で謝意や照れなどを表現するトン・ワイの演技が光る一作だった。
先述したドキュメンタリー『スタントマン 龍虎武師』の冒頭で、インタビューを受けたトン・ワイは、自分は「スタントマン」というより「アクション俳優」だという。なぜなら「演技するから」と自負を込めて語っているだけあって、本作『スタントマン』ではバリバリの主演俳優なのである。しかも自分の本業でもあるアクション監督を演じている。本作のリアリティはトン・ワイの演技の賜物である。
普段は落ち着いて優しく照れ屋のサムが、いざアクション撮影となると鬼の形相になり、労働時間を超過しても、スタッフやスタントマンの体力をそっちのけにしていい作品を作ろうと躍起になる。「昔は1シーンに20日かけて」いいアクションシーンを撮ったんだと言い放つサムは、現場や出資者たちとの軋轢を次々と生みだしていく。様々なコンプライアンスや働き方改革とは縁遠いサムは、引き受けた以上、面白い映画を撮ることが至上だと考えている。
このあたりは香港アクション映画全盛期を生きたトン・ワイの姿そのものに見えてくる。

その反面、うまくいっていない愛娘へのぎごちない態度や娘チェリー(セシリア・チョイ)の結婚式のために陶器を手作りしようとする微笑ましいサムの姿がとてもいい。それを手助ける助手ロン役テレンス・ラウの優しいイノセントな笑顔も魅力的だ。このふたりの師弟関係がどうか永遠に続くよう祈ってしまう。

劇中、撮影許可が下りない繁華街での強盗シーンを「無許可」で撮影強行してしまうサム。ここは何か起きるのではないかとハラハラドキドキしてしまう大興奮のシーンだ。
かつて筆者は『八仙飯店人肉饅頭』(1993)や『エボラシンドローム』(1996)、ダニー・リー(李修賢)主演の刑事物などでアクション監督を務めたジェームズ・ハー(夏占仕)にインタビューしたことがあり、その際にユンファ主演のノワール作『黒社会』(1989)で、海底トンネル道路の大アクションシーンを無許可(15台のカメラを回して)撮影したという信じがたい話(警察が監視カメラを見て駆け付けるまでの時間に撮影を一発必中でやって皆で逃げたとのこと)や『野獣特捜隊』(1994)でダニー・リー刑事たちとアンソニー・ウォン一派との旺角の街頭での大銃撃戦も無許可だったとの話を聞いて驚いたものだが、これとて80年代、90年代の話である。これを今、香港でやったらどんなことが起きるのだろうか。

サムのアクション映画製作は本作と同時にクライマックスに向かって突き進む…。
ここから先は書けないが、ぜひ映画館のスクリーンで息を殺して見ることをお勧めする。最後は涙。
7月25日(金)もうすぐ公開! 映画館に走ろう!!
<柚木浩の記事>
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柚木 浩(編集者/映画ライター)
書籍『香港電影城』シリーズの元編集者&ライター。
香港映画愛好歴は、『Mr.Boo!』シリーズを劇場で見て以来。
火が点いたのは『男たちの挽歌』『誰かがあなたを愛してる』『大丈夫日記』『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』あたりから。
好きな香港映画は1980年代後半~90年代前半の作品に集中しているが、2000年以降のジョニー・トー作品は別格。邦画、洋画、韓国映画、台湾映画も見る。ドラマは中国時代劇、韓国サスペンス系。好きな女優、チェリー・チェン、チョン・ドヨン。ハリウッド映画、ヨーロッパ映画、韓国映画、邦画など広く見ているがSFファンタジー、ホラー・怪獣映画などジャンル映画も好き。




