11月1日に開幕した「香港映画祭 Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」(東京・YEBISU GARDEN CINEMA)のオープニングを飾る作品として『ラスト・ダンス』(原題『破・地獄』)が上映されました。
本作はコロナ禍で仕事を失ったウェディングプランナーのダオシェンが葬儀社に転職し再起を図る香港版『おくりびと』ともいえる作品です。
不本意ながら葬儀社の仕事に就き、最初は失敗続きで遺族を怒らせていたダオシェンが、しだいに遺族の心に寄り添い、葬儀のプロとして成長していく姿をダヨ・ウォン(黄子華)が熱演。
昨年の香港映画祭で上映された『毒舌弁護人』の主演でも圧倒的な演技をみせたダヨ・ウォン。(ちなみに本作は『スクリーン』誌の昨年の私的ベスト10で第1位に選んだほどの秀作。未見の方はぜひぜひご覧下さい!)
今年もあるきっかけから真摯に仕事に取り組む主人公を時にコミカルに時にシリアスにリアルに演じ圧巻!コメディアンからすでに名優の域に到達しています。
香港では信仰する宗教によって仏教、キリスト教、道教で葬儀を執り行うのが一般的だそうで、ダオシェンと共同で道教の葬儀を行う道士のマン役をあの『Mr.BOO!』シリーズのマイケル・ホイ(許冠文)が演じます。
頑固一徹で道教の教えに忠実なマンは、新米のダオシェンの指南役となるのですが最初は衝突します。しかし、やがて真摯に仕事に取り組むダオシェンを支え、また後半はあるきっかけからマンとその息子、娘は彼に救われることになるのです。
コメディから一転、シリアスな役に取り組んだマイケル・ホイが老境の道士のプライドや苛立ち、切なさをしみじみ演じググッと心を掴みます。
香港映画好きで現地を何度も訪れていますが、香港の葬儀や道教儀式の深い知識はなく、本作で目からウロコの学びがありました。
原題『破・地獄』の英語タイトルがどうして『ラスト・ダンス』なのか疑問だったのですが、見終わった後はこのタイトルの意味がよく分かりました。
上映後の観客からの質問に答えるコーナーには、アンセルム・チャン (陳茂賢)監督、マイケル・ホイ、ダヨ・ウォン、道士マンの息子役チュー・ パクホン(朱栢康)、娘役のミッシェル・ワイ(衛詩雅)が登場。
マイケル・ホイはダヨ・ウォンとの『マジック・タッチ』(1991)以来、32年ぶりの共演について、
「前々からダヨ・ウォンのことを知っていました。スタンダップコメディアンでひとりで全部やっている。下手したら誰も笑ってくれないのではと自分のことではないのに心配になっていましたが、彼はとても上手くやっていた。オファーがあり最初に共演したときから、彼は俳優をやりたいのだろうと思っていました。また、共演できて嬉しいです」
ダヨ・ウォンは、「金は人生〜」と日本語で発言して笑いをとったあと、「役者をやりたくてやりたくて32年たったところで、もう別になんでもやらなくていい。でも、またマイケルと縁があってやることにやりました」
日本語で「これぞ人生、ほんと」とニッコリ。
本作のアンセルム・チャン 監督作でチュー・ パクホンと共演が多いミッシェル・ワイは、「彼とはコメディでも共演したのですが、この人はほんとにコメディアン。笑うツボというのは難しいんですが押さえていて、しかもシリアスなものもできる。ほんとに素晴らしいと思います」
チュー・ パクホンは「ミッシェルとは前に2作共演しました。共演の場面は多くなかったのですがお互いに信頼関係を築くことができました。今回、『ラスト・ダンス』でも信頼関係があるので暗黙の了解でできた。本当に信頼できる相手に出会うのは難しいのですが、今回は監督、ダヨ・ウォン、私たちのパパのマイケルと信頼できる人との出会いに感謝したいと思います。素晴らしい経験でした」
監督は本作のテーマについて、
「香港の葬儀を描いたのですが、中国語では「破れ地獄」と言うもともと中国の道教からきたものなのです。人が亡くなったときに地獄に行くのか天国に行くのか審判をしなければならない。その前にできるだけ地獄に落ちないように道士が救おうとする儀式。これは香港を代表するようなひとつの文化です。『ラスト・ダンス』というタイトルは、人生における最後の“舞”。生と死は我々が自分でコントロールすることはできない。受け入れるしかない。そのためのラスト・ダンスなのです」
さらに監督は、亡くなった人を救う役割の道士と生きている遺族を救うダオシェンを登場させることで「人間の生命」もテーマとなっており、法律で認められた家族だけが遺族だという法を批判するために同性愛の女性を出したそう。また、脚本を書く前に道士に取材して女性は汚れた存在とされ儀式を行えないと知り、「男尊女卑に一発くらわす」ためにミッシェルのキャラクターを加えたといいます。
マイケル・ホイは本作のシリアスな役柄について、「口下手な頑固オヤジで面白いキャラクターだと思いました。息子、娘に本音を言わない。実は私の父親と似ているんです。父は子供を褒めないし、愛していると言わない。だから自分の父親を演じているようでした。私は真逆で子供とよく話すし褒めます。父親の真似をする役は楽しく大きなチャレンジでした」
82歳と高齢のマイケル・ホイの登場は「もしかしたらないかも」と主催側から予告されていたのですが、赤いセーターにレパード柄のキャップという若々しいスタイルでお出ましになり、歓声を浴びるたびに笑顔で応える姿はまさに香港映画界のレジェンド降臨でした。
◇ストーリー
コロナ禍で経済が低迷し、仕事が立ち行かなくなったウェディングプランナーのダォシェンは、不本意ながら葬儀社に転職する。最初は見解の違いから指南役のマンとしばしば衝突するダオシェンだったが、やがて仕事を通して人生観に変化が生まれていく。
作品情報
『ラスト・ダンス』
監督/プロデューサー/脚本:アンセルム・チャン (陳茂賢)
出演 マイケル・ホイ(許冠文)
ダヨ・ウォン(黄子華) ミッシェル・ワイ(衛詩雅) チュー・ パクホン(朱栢康)他
126分/カラー/広東語/日本語、英語字幕/2024年/香港
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「香港映画祭 Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」 東京 2024年11月1日(金)~11月4日(月) YEBISU GARDEN CINEMA 大阪 2024年11月9日(土)~11月11日(月) テアトル梅田 福岡 2024年11月15日(金)~11月17日(日) ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13 公式サイト https://makingwaves.oaff.jp/ 公式X @MakingWaves_HKC 公式Instagram @makingwaveshkc 主催:香港国際映画祭協会 協力:大阪アジアン映画祭 後援:香港特別行政区政府 駐東京経済貿易代表部 助成:香港特別行政区政府 文創産業發展處
村上淳子(むらかみあつこ)
映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家
雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。