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2026年アカデミー賞主演女優賞受賞作『ハムネット」シェイクスピアの妻の視点で描く愛と死、葛藤と再生のストーリー

 「生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ」の名セリフで有名なシェークスピアの代表作「ハムレット」その誕生秘話をベースに、恋愛、家族愛、愛息の死、喪失から再生の過程が描かれます。 

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 16世紀イングランドの小さな村。学校の先生をしている若きシェークスピアと出会い、妻となったアグネス(ジェシー・バックリー)は自然と交わるような不思議な力を持つ女性。鷹と心を通わせ、薬草を熟知。深い森の緑に映える赤い服で、生き生きと散策するアグネスの姿が印象的です。さらに第一子を森の中で出産するほど森に見守られるような存在でした。 

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 しかし、ロンドンで劇作家として身を立てようとする夫と離れ離れになり、家を守り3人の子育てをするなかで、ペストが猛威をふるい息子ハムネットに先立たれるという悲劇に見舞われます。

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 とにかくジェシー・バックリーの存在感、迫真の演技が凄まじい。森で出産するときの叫び、息子の死に直面した悲しみと悔しさの慟哭、夫の舞台を観るクライマックス。感情を激しく叩きつける神演技には心を鷲掴みにされました。

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 アマゾンで働く車上生活者をリアルに描いた社会派の『ノマドランド』(2020)で、アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した監督のクロエ・ジャオは受賞後、マギー・オファーレルによる2020年の小説『ハムネット』(英女性小説賞と全米批評家協会賞を受賞)の映画化を託されたそう。そこでシェイクスピアの妻役にはジェシー・バックリーしか思い浮かばなかったといいます。
 「キャスティングが映画の80%を決める」と語るクロエ。この作品の世界観を最大限に引き出したのは間違いなく主演ジェシー・バックリーの功績でアカデミー賞主演女優賞も納得です。

 3月15日にハリウッドのドルビー・シアターで開催された受賞式でジェシーは、「この情熱に満ちた女性を演じられたこと。そして母親の愛に限りがないことを知れたことは私にとって最高の経験です」と語り、授賞式当日がイギリスの母の日であったことから、「この賞を母親の心に宿る美しい混沌に捧げます。私たちは皆、困難に負けない女性から生まれました。この役で賞をいただけたことは大変な名誉です」とスピーチを締めくくりました。

 アニミズムに絡めて、シェイクスピア夫妻に降り掛かる"喪失"と"再生"を描いたストーリーは切々と胸に染み入る作品です。
 
◇ストーリー
1580年イギリスの小さな村。貧しいラテン語教師ウィリアム・シェイクスピアは、森を愛する自由奔放なアグネスと出会う。2人は互いに惹かれ合い、情熱的な恋愛の末に結婚して3人の子供を授かるが、ウィリアムが遠く離れたロンドンで演劇のキャリアを模索する一方、アグネスは独りで子どもたちを守り家庭を支えていた。そんななか一家に大きな不幸が訪れ、かつて揺るぎなかった夫婦の絆が試されることになる――。

 

◇作品情報
『ハムネット』

2026年4月10日(金)より TOHOシネマズほかで全国公開
監督:クロエ・ジャオ
脚本:マギー・オファーレル、クロエ・ジャオ  
製作:スティーヴン・スピルバーグ、サム・メンデス 
出演:ジェシー・バックリー、ポール・メスカル、ジョー・アルウィン、エミリー・ワトソン 
2025年/イギリス/ビスタサイズ/126分/カラー/英語/5.1ch/原題『HAMNET』/
配給:パルコ ユニバーサル映画   ©2025 FOCUS FEATURES LLC.

 

村上淳子(むらかみあつこ) 海外ドラマ評論家/映画ジャーナリスト 
著書『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著『香港電影城』シリーズ(小学館)ほか。 (社)日本ペンクラブ 国際委員会委員
ブログ「海外ドラマ評論家・村上淳子のLOVEドラマ&LOVEハワイ」 https://ameblo.jp/mikepon1204/