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香港映画祭2023 歴代興行収入第1位『毒舌弁護人』主演ダヨ・ウォンと監督のQ&A完全再現!

 11月3日「香港映画祭2023 Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」にて「毒舌弁護人〜正義への戦い〜」が上映され、ゲストに主演の国民的スター、ダヨ・ウォンと監督・脚本を手掛けたジャック・ンがゲストとして登壇しました。

 本作は今年の旧正月に公開され、香港映画の歴代興行収入ナンバーワンの記録を更新しただけあって、本当に面白い息もつかせぬ法廷劇。

 

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 ダヨ・ウォン演じる法廷弁護士ラム・リョンソイは無実のシングルマザーが自らの落ち度で有罪となり刑務所に入ったことで味わったどん底から、彼女の無実を証明するため地道な検証と奇襲作戦を繰り広げるのです。

 以前は法廷でも株の値動きをチェックするほどやる気がなくお金に執着していたラムが、悪の権化のような富豪の一族と対決し、正義のヒーローとなる過程をコミカルな要素も交え展開し、1秒たりとも飽きさせません。ラムがダメダメな弁護人になった背景から矜持と男気を取り戻し復活し、最後にはスカッと爽快!
 
 とにかく最高の脚本に見事な適役、ダヨ・ウォンの怠慢→自責の念→熱血に変貌する主人公を見事に体現した演技に引き込まれずにはいられません。とりわけクライマックスの法廷での圧倒的な熱量の弁論は、香港人だけでなく日本人の心にも深く刺さります。

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  香港映画マニアだけでなくすべての映画マニアに観てほしい!と個人的に激推ししている作品の主演と監督の登壇に期待大でした。

 

 奇跡の60代といわれるダヨ・ウォンですが、至近距離で見てやはりミラクルを感じました。眼鏡をかけた顔には年相応のシワはあるものの素肌がきれい。特に年齢が出やすい首にあまり劣化がないのは凄い。美肌の秘訣をぜひ聞いてみたいです。スリムな体型をキープしているのも頭が下がります。

 

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 監督は意外にも片耳にダイヤのピアスをつけていて、ファッションにこだわりがありそうな印象でした。

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 司会者が「この作品が初監督となったジャック・ンさんにひと言お願いします」と促し、監督は「皆さん観に来てくださって、サポートして下さって本当にありがとうございます。私はこの作品が初監督です」
「ダヨ・ウォンさんはプロモーションでの来日は初めて」の司会者の紹介に、日本語で「そうですね。私はダヨ・ウォンです。おやすみ」と笑いをとり「これからはいつも来られるように頑張りたいと思います」と発言。

その後、観客からの質問に答えるQ&Aコーナーが始まりました。

 

Qここまでの大ヒットを予想していましたか?成功した理由は?
監督「理由はいくつかありますが、まず、ひとつめは香港人はダヨ・ウォンが大好きなんです」
ダヨ「人気があっても作品が良くないとダメ。監督のおかげだと思います。中国語でいい伝えがあるんですが、いくらボタンの花が美しくても葉っぱがないとボタンが目立たない。だから、我々役者はボタンではなく葉っぱです。監督こそ美しいボタンです。凄いねー(日本語)」
観客から大きな拍手!
監督「コロナの関係で香港人は3年間、正月に家から出られなかった。それまではお年賀に行ってから正月映画を見るのが習慣でした。今年はコロナが少し落ち着いて正月映画を見られるようになった。ちょうど我々の映画は正月の一番いい時期に公開されたのも理由のひとつです。
 最後は、この映画は香港人の心の声をうまく表現することができた。気分爽快になる作品であるのも大ヒットの理由だと思います」

 

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Q主役、脇役の演技も素晴らしかったです。起用の理由を教えてください。
監督「脚本を書く段階では主演を誰がやるのかと言う事は考えていませんでした。実際、ダヨが演じた役は嫌な役なんですよね。口はうまいんですが、なんかどっか性格が悪い。こういう嫌な奴を書いた後に、どんな人がこの役に合うのか考えました。たくさんの候補者がいて、彼もその中のひとりでしたが、ダヨのキャラクターというか、特質というか、私の書いたこの人物に非常に似ているところがあると思いました。彼は香港でスタンダップコメディショーをひとりでやっていて大変人気がある。香港では公認で「口がうまい人」なのです。みんなどうして彼のショーを見に行くのかと言うと、なんか少し嫌な奴、でも口がうまくて面白いというところが、彼と主人公100%ぴったりだと思いました。
冤罪となる母親役ルイーズ・ウォンと初めて仕事をしたのは脚本を担当した『アニタ』(21)でした。勤勉で真面目な人で映画初出演にもかかわらず演技も素晴らしいものがありました。私も当時現場にいて自分が監督として映画を撮るときには、彼女に出てほしいとその時から思っていました。
 財閥の娘で医師の妻を演じたフィッシュ・リウに出演オファーしたとき、彼女は「どうして私?自分の家はお金持ちでもないし」と戸惑っていました。彼女はモデルでもあり、たくさんの写真をInstagramにあげています。私はそれを見せて、あなたのこの目つきがこの奥さん役にぴったりだと思うと説得しましたが、自分にできるんだろうかと戦々恐々でこの役を引き受けたそうです」
ダヨ「監督の好みはですね、なんかいやらしいやつが好きなんです」(笑)

監督「すべての役柄には私の何かが入っています。そういうことです(笑)」

 

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Q法廷での対決シーンのエピソードを教えてください。
ダヨ「これまでいろんな映画に出演してきましたが、私の演技で拍手が起きた現場は2本だけでした。撮影現場と言うのは、皆さんが想像しているよりもにぎやかではなく冷淡なんですね。1つのシーンを撮り終えると“はい、次”という感じ。1度タイで撮影したときは、ある場面の演技のあとスタッフがみんな拍手してくれました。
 今回、『毒舌弁護人』の撮影をしたときに拍手してくれたのは、現場のスタッフではなく傍聴席にいる弁護士役の人たちでした。でも、励ましてくれるのは嬉しいけど忘れないように言いました、“お前たちは私の敵なんだ!”と。この場面は私にとっても非常に印象深かった心なんですが、皆さんにとってはいかがでしたか?」
場内から大きな拍手!

 

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Qダヨさんは日本では「ウォン・ジーワー」の名前で知られていますが、英語名の由来は?

ダヨ「なんか“ダヨ”は日本語みたいな感じですね。カナダの大学に留学したときに、私の名前をDAYOと書いたら教授に日本人?と聞かれました。この名前の話をすると話が長くなりますが、これは私にとっても皆さんにとってもひとつの教訓になるだろうと思っています。世の中のことはうまくいくとは限らない。
 中学生のときの私の英語名はスティーブンでした。でも、同じクラスに6人のスティーブンがいました。そこで、同級生にスティーブンは嫌だね。どんな英語名が良いと聞きました。彼が言うには僕の兄の名前は“デヨ”、だから“ダヨ”にしたらと。全く何の意味もなくて、ようはしてやられて、ずーっと“ダヨ”という名前がついて回った。ある意味人生は翻弄されるものなんです。
 不思議に思うんですけど、なんで僕の英語名にこんなに興味があるんですか?」
場内、クスクス笑い。

 

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Q登場人物の役名が一般的な香港人の名前ではないのはなぜですか。
監督「まず、主役の林涼水(ラム・リョンソイ)ですが、広東語のなかで「水」と言うのはいくつかの意味があるのですが、「下手、下手くそ」という特別な意味もある。香港で、裁判官の名前読むときには、〇〇裁判官とは呼ばず〇〇官と呼ぶ。そうすると、彼の名前呼ぶときにへたくその裁判官と言う含みがあるのです。香港人の親たちが、子供の名前をつけるときに陰陽五行の属性を占います。名前に水があれば、おそらくこの人は「火」の属性がある。バランスをとるために名前に「水」を入れるのです。本当は火を消すのは「凍水」のほう一発で消すことになるのですが、でも水のほうが発音の聞こえがいいので「林涼水」になりました。
 再審裁判を担当する検察官は金遠山(カム・ユンサン)という名前ですが、広東語で山と水は縁がある。必ずどこかで出会うと言う言い伝えがある。ラムとカムは性格にしても、仕事のやり方にしても全く違う。ただし正義と言うことに対して、2人は共通の理念を持っている。だから立場が違って性格が違って仕事のやり方が違っても、山と水はいつかどこかで出会って縁があるだろうと言う思いで名前をつけました」
ラストは、
Q続編の予定はありますか。また主演はダヨさんですか?
監督「しばらく続編は考えていません。この映画の脚本を書くのに1年半かかりました。もうその期間中はほんとに地獄でした。だから、もう一度地獄には入りたくない」
ダヨ「仮に続編を取ることになっても、僕には声がかからない。Everything is wrong !(何もかもがおかしい!)」と劇中の法廷での印象的な台詞を交えて会場を沸かせたのは、さすがコメディアンディでした。

 

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 最後に日本語でに「ありがとうございます。ありがとうございます」と挨拶して会場を立ち去ったダヨですが、なんと劇場ロビーではファンにもみくちゃにされ、サインや写真撮影に応じていました。

 

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   国民的大スターなのにサービス精神旺盛、素晴らしすぎます。

 

「毒舌弁護人〜正義への戦い〜」日本公開中。

公式サイト https://dokuzetsubengonin.com/


「香港映画祭2023 Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」

公式サイト https://makingwaves.oaff.jp/

11月5日まで開催。チケットはすべて売り切れとなっている。

 

村上淳子(むらかみあつこ) 映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家 雑誌『anan』のライターとして活動中に香港エンタメに目覚め「香港電影城」(小学館)シリーズに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。好きな香港俳優はチョウ・ユンファ、レスリー・チャン、トニー・レオン、イーキン・チェン、ニコラス・ツェー。