エンタメパレス

映画、海外ドラマ、本を中心に、執筆メンバーの激推し作や貴重な取材裏話など、エンタメ好きの心に刺ささる本音どっさりのの記事をお届けします。

雪組『ベルサイユのばら』観劇。もはや宝塚歌劇の伝統芸能作はエンタメ好き必見!

 希少なチケットをなんとから手に入れ宝塚歌劇団・雪組「ベルサイユのばら ーフェルゼン編ー」を観劇してきました。2013年の月組『ベルサイユのばら ーオスカル編ー』以來の「ベルばら」観劇。宝塚といえば「ベルばら」と言われるくらい有名で、もはや伝統芸能の域に達している作品です。

 今回はポスターのメインカラーがピンクでこれまでとは一線を画していたこともあり「シン・ゴジラ』のように「新・ベルばら」になるのではという予想は外れ、大筋はこれまでのフェルゼン編と同じ。

これまで同様、幕開きから「ご覧なさい、ご覧なさい〜♪」の小公子、小公女たちの登場で、一瞬でベルばらの世界観にもっていく演出でした。

 

f:id:manareax:20241007161307j:image
 
 配役はフェルゼン彩風咲奈、マリー・アントワネット夢白あや、オスカル朝美絢。三者三様ハマり役でこの雪組トリデンテが最強、魅力的すぎました。
 とりわけ朝美絢のオスカルが二次元から飛び出したような再現度。以前からオスカル役がいちばんハマる美貌だとは思っていましたが、まさかここまでとはー。
 一幕では凛々しい近衛連隊長として登場し、アンドレと愛を交わす「今宵、一夜」のシーンでは女性らしい所作でしっとり演じ、二幕では自らの軍人としての矜持を見せ、バスチーユへ向かう「行くぞー!」の雄叫びの迫力が凄まじかった。

f:id:manareax:20241007161353j:image

 彩風フェルゼンは長い脚の美しいスタイルでマントさばきも颯爽と衣装を着こなし、貴族として抑制がきいたときと激情が溢れるときの落差の演じ分けが秀逸。「行けフェルゼン」のシーンは熱い思いがひしひし伝わってきました。

 夢白あやのアントワネットはどこまでも気品があり、最後、断頭台に向かう後ろ姿まで王妃らしい。牢獄でのフェルゼンとアントワネットの別れのシーンの切なさが心に刺さります。

 この公演は『ベルサイユのばら』50周年記念作になります。2013年の上演から約10年ぶり。初演のときは3年連続上演されたこともありましたが、このところ再演までに数年を有するようになりました。
 宝塚は人気コミック『るろうに剣心』『CITY HUNTER 』や、話題の映画『記憶にありません』、果てはインド映画『RRR』までを果敢に舞台化してきました。
 しかし、これらの作品は他の劇団でもできる。唯一できないのが『ベルサイユのばら』です。あのゴージャスな世界観を煌びやかな衣装、豪華な舞台装置で再現するのは他ではほぼ不可能。お金と手間のかけ方が桁違いだからです。

 さらに、宝塚のスターは他の俳優とは一線を画すあの大劇場で輝きを増すカリスマ性を持っています。その特質も「ベルばら」にピッタリなのです。

 宝塚ファンにとってはお腹いっぱいの作品かもしれませんが、毎回、チケット争奪戦となる本作。
今回は香取慎吾や谷原章介も観劇し感想を述べられていましたが、友人やエンタメ関係者にもぜひ観てほしいと思っても無理!

 もちろん新作も必要、作りあげるのは意義があることですが、年に1回は「ベルばら」をやることをルーティンにしてはどうでしょうか。観たい人にチケットが渡りファンの裾野が広がると同時に、旧作で劇団員やスタッフの負担も少しは減るのではないかと思うのですがー。

 とにかく「ベルばら」は煌びやかなシャワーを浴びてドラマティックな世界に浸れる稀有な宝塚ならではの作品なので、エンタメに興味がある人にとっては一見の価値ありです。
 
 最後に長年、宝塚を観てきましたが昨年、最大の悲劇が起こったことに衝撃を受けました。劇団に対して言いたいことは沢山あリます。このまま観劇し続けるかどうか悩みましたが、雪組の次回作が韓国ドラマ『愛の不時着』の舞台版ということもあり仕事の一環として鑑賞すべきだと考えました。

 パワハラのため他界された宙組の有愛きいさんのご冥福を心よりお祈りすると共に、その妹の一禾あおさんによりよい未来が訪れることを心より願っております。


村上淳子(むらかみあつこ)
映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家
雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。