今年の東京国際映画祭での上映が決まるやいなや話題騒然となり、チケットが早々に完売となった『風林火山』
約5,100万米ドルという香港映画史上最高の制作費。2017年に撮影が開始されたものの、何度も中断して 7年の製作期間を経て完成。主演の金城武は2017年の中国映画『恋するシェフの最強レシピ』以来、久々の登場。
しかし、ジュノ・マック監督とキャストの不仲説が流れ香港では話題になったもののいまいちヒットせずで、期待と不安が半々で観ましたが、はっきり言って好き嫌いが分かれる作品だと思います。
内容的には麻薬組織と警察と傭兵集団の三つ巴の王道香港ノワール、そこにアーティスト、俳優でもある監督の美学と細部にまでこだわりを詰め込んだ作品なのです。

例えば、金城演じる麻薬組織を仕切るリー・ウートン(季霧童)がコーヒーを淹れるシーン。茶道の茶釜から熱湯を試験管に注ぐタイプのコーヒーメーカーが出てきて目が釘付けになりました。
爆破シーンも「爆発のアーティスト」の異名を取る現代美術家のツァイ・グオチャン(蔡國強)を思わせる計算され尽くした絵になっています。
ここからネタバレあり
舞台は核の影響で雪と放射性物質に覆われた架空の90年代香港。表向きは成功した企業だが裏の顔は父親が麻薬密売で財を成した闇の組織である李家。その父親は余命幾ばくもなく入院中。組織は指名手配犯で海外に逃亡している長男ではなく、次男・ウートン(金城武)が仕切っています。

そんな組織を追う麻薬取締課の王刑事(ラウ・チンワン)は、喘息の娘を育てるシングルファーザー。海外の空気の綺麗なところへの移住資金のため、裏では季家と取引をしているのです。
そこに絡むのが殺しのプロ集団に属するルイス・クー演じるチン・マンシン(程文星)。高額な報酬を得ながら天涯孤独で愛猫と暮らしていますが、その背景には過去の贖罪がありました。
季家の父が他界し、跡継ぎ問題で兄が香港に戻り、ここから後継者争いとドラッグ争奪戦のアクション炸裂の壮絶バトルから終幕に向かうのですがー。
とりわけ雪のシーンが印象的。オープニングの銅羅湾に降る雪景色のなかでのいきなり無差別銃撃事件。(ちなみにこの犯人のひとりは、顔は隠されていますがジャーマン・チョン)、雪山でのルイス・クーの死闘はもうハードボイルドな緊張感にヒリヒリします。
また、メインキャストが衣装を含め文句なくカッコよく、イケオジの金城武、ルイス・クーはもちろんのこと、どちかとえば武骨なラウ・チンワンまでビジュアルが際立っていたのも監督の美学の賜物だと思われます。
映像は監督の世界観が貫かれ引き込まれる反面、ストーリーは難解で説明不足と感じるところも。実は一説によると元は7時間の作品を大幅にカットした影響もあるのでしょうが、金城演じるリー・ウートンと兄、恋人との関係、ルイス・クー演じるのチン・マンシンの生い立ちなどが匂わせになっているだけ。
ただ、それを考察する楽しみはあり。監督のスタイリッシュな世界観に浸りつつ、物語の真相や核心を考察するのが本作の味わい方といえそうです。
【作品解説】
2017年に撮影が開始されたものの、何度もの中断を経てついに完成されたクライム・アクション大作。香港の繁華街・銅鑼湾(コーズウェイ・ベイ)で武装集団による大殺戮とビル爆破事件が発生。その事件である富豪が死亡したことをきっかけに、麻薬組織と警察の特殊部隊との間の抗争が勃発する。巨大なオープンセットで撮影された、雪景色の銅鑼湾での大殺戮場面が素晴らしい。その後に展開されるドラマも、美意識が貫かれた映像に満ちており、単純な犯罪映画とは一線を画した作品である。久々の主演作となる金城武をはじめ、ルイス・クー、レオン・カーファイ、ラウ・チンワンら、香港を代表するスターたちの競演は必見。カンヌ映画祭ミッドナイト部門で上映された。
(東京国際映画祭2025公式サイトより)
https://2025.tiff-jp.net/ja/lineup/film/38004GLS12

村上淳子(むらかみあつこ)
映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家
(社)日本ペンクラブ国際委員会委員
雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。




