エンタメパレス

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映画『モロカイ・バウンド』はハワイを愛する全ての人が観るべきネイティブ・ハワイアンのリアル

 日本のフラダンス人口はハワイより多いことがわかっています。最近では鍛えた身体を見せたい男性ダンサーも増えてきました。私も含めフラダンスを学んでいる人は、ハワイの歴史やハワイ語、ウクレレなどその文化に関心を持っていますが、本作を観てネイティブ・ハワイアンの現実、葛藤をまざまざと痛感しました。

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◇ストーリー
モロカイ島はハワイの中でも観光地化されておらず、手つかずの自然が残っている。モロカイを出て、オアフ島で暮らすネイティブ・ハワイアンのカイノア(ホールデン・マンドリアル=サントス)は、とある事情で服役していた。仮釈放された彼は、前科者というレッテルに苦しみながら、疎遠になっていた息子ジョナサン(アキレス・ホルト)との絆と、先住民としてのアイデンティティを取り戻そうと、苦難の道を歩き始める。

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 カイノアが服役した背景にはハワイの厳しい生活状況が関わっているのです。「父親を亡くしたカイノアの母親は3つの仕事を掛け持ちしていた」と言うセリフがありますが、アメリカ本土からほとんどのものを空輸するハワイは非常に物価が高い。本当に2つ、3つ仕事を掛け持ちしないと生活が立ちゆかない人が大勢いるのです。

 でも仕事の大半は観光業に関することで、しかも賃金は安い。カイノアの元妻がプリンス・ワイキキホテルの客室清掃スタッフとして働く姿、カイノアの妹がワイキキのホテルでハワイアンソングを歌うのはとてもリアル。

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 私のハワイのクム(先生)のお母様もクムフラてしたが、引退後は物価が安いラスベガスにお引っ越しされました。

 恵まれた気候と美しい海や山の景観を持つハワイ、観光資源となっている自然や文化はもともとネイティブ・ハワイアンのもの。

 しかし、それを享受して莫大な利益をあげているのは後から入ってき人々であり大資本です。

 先住民の主食であったタロイモをたたききつぶして調理することを「(芋の)魂をなくす」と語り「タロイモを金儲けに使うな」と仲間と話すカイノア。

 ハワイアン・ネームではなく「ジョナサン」を名乗っている息子に、カイノアはハワイ語辞典を贈り、「昔のハワイ人は世界を航海した。誰よりも先にだ。伝説の人々だ。私たちのその血を継いでいる忘れるな」と熱弁。そのアイデンティティを継承しようとする信念に心を掴まれます

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 ハワイアンキルト、ラウハラ編み、ジェイソン・モモアなどハワイの文化を愛する人にこそわかるキーワードが散りばめられた『モロカイ・バウンド』、ハワイを愛する全ての人に観てほしい秀作です。

 

◇作品詳細
『モロカイ・バウンド』
2025年10月17日恵比寿ガーデンシネマほかで全国公開。

監督、脚本、プロデューサー/アリカ・テンガン
出演/ホールデン・マンドリアル=サントス、アキレス・ホルト、カマラニ・カペリエラ、カレナ・シャーリーン、アーイナ・パイカイ、レイシー=リー・カヘアラニ・モラレ、ハレ・ナトア、モキハナ・パレカ=ジャクソン、カヴィカ・カヒアポ
2024年/アメリカ/112分
配給ムーリンプロダクション
制作会社:Significant Productions, Teenager, Banana Blossom/©Molokai Bound LLC

公式サイト
https://molokaibound.jp/

 

村上淳子(むらかみあつこ)
映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家
(社)日本ペンクラブ国際委員会委員
雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。演劇、ミュージカル好きでもある。ハワイマニアでフラダンス歴は長いが下手の横好き。