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アクションとドラマが拮抗する ドニー・イェンの会心作! 巨悪を叩きつぶすスーパー検事降臨!

 

『プロセキューター』STAFF 監督・主演・製作: ドニー・イェン 『ジョン・ウィック:コンセクエンス』CAST ジュリアン・チョン 『サンダーストーム 特殊捜査班」 フランシス・ン 『エグザイル/絆』 マイケル・ホイ 『Mr.BOO!』 シリーズ  ジャーマン・チョン 『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』

2024年/香港・中国/広東語/カラー/117分/シネスコ/5.1ch/原題:《誤判》THE PROSECUTOR/字幕翻訳: 小木曽三希子  配給:ツイン TWIN

(C)2024 Mandarin Motion Pictures Limited / Shanghai Huace Pictures Co., Ltd. All Rights Reserved

9月26日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

  ドニー・イェンのアクション映画をあと何本見ることができるだろうか? 

 毎年ずっとそう問いかけてきたが、今年も本作を見るとこができた! しかも、とびっきり面白くて、ハラハラし、敵にイライラと腹が立ちながら、ちゃんと巨悪を叩きのめしてくれる我らがドニーがそこにいた。62歳となったドニーだが40歳くらいにしか見えないし、動きもシャープすぎる!

 「誰々と同時代に生きて幸せだ」という言い方がある。

 今ならさしずめ「大谷翔平と同時代に生きて幸せだ」となるだろうが、香港アクション映画ファンにとっては「ドニー・イェンと同時代に生きて彼の映画を見ることができて幸せだ」となるはずだ。ライバルのジェット・リーが病に倒れ、健在とはいえサモハンもジャッキーも年齢を重ねて重鎮となった。しかし、今もドニーはバリバリの現役だ。

 本作は、「最強検事が、巨大な陰謀に立ち向かう法廷アクション・エンタテインメント!」とあるように、ドニー作品には珍しく法廷ドラマを主軸としている。香港で実際にあった麻薬密売に関わる冤罪事件を基にしているのでディテールがリアルだ。

公式サイトの梗概を載せておこう。

壮絶な銃撃戦の末に武装集団の首謀者を捕らえたものの、証拠不十分で有罪にできず、

警察を辞職した元警部・フォク(ドニー・イェン)。

7年後、検事となった彼は、貧しい青年キットがコカイン密輸事件で有罪を認めたことに違和感を抱く。

調査を進める中で、弁護側の裏に黒社会との癒着や証言の誘導があったことが判明。

真実を追うフォクは、検察内部の圧力と対立しながらも、陰謀を暴こうとする。果たしてフォクは、キットの無実を証明し、正義を貫けるのか―。

 筆者はいつもそうなのだが、記事を書く前に精神のストレッチとして、主演者や監督の関連作品を3作ほど再見してからPCに向かうようにしている。

 今回は、アンディ・ラウと初共演した『追龍』(2017)、『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』(2020 アクション監督大内貴仁)、そして『スーパーティーチャー 熱血格闘』(2018)の3作だ。

 この3作では、ドニーの突出したアクションを見るというより、彼の演技や表情が見たかったのだ。80年代香港ノワールの衣鉢を継いだ傑作『追龍』では、1960年代から70年代を背景にアンディ・ラウとがっぷり四つに組んだ見事な役者ぶりを見せてくれる。『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』で一躍脚光を浴びた九龍城が主舞台となり、そこでのアクションも見応え十分であった。

 一方『燃えよデブゴン』ではコメディ、『スーパーティーチャー』では青春ドラマのジャンルでもドニーは見事に題材に融け込み、しかも要所要所で自分の得意技(アクション!)を繰り出す。ドニーなら、政治家であろうが、医者であろうが、大学教授であろうが、自然に自在に演じられそうだ。そう感じさせるオールマイティさがドニーにはなぜかある。

 ドニーに注目した最初のころの映画『ドラゴン・イン』(1992)の異様に強い宦官とか、『ワンス・アポン・ア・タイム・インチャイナ 天地大乱』(1992)のこれも強すぎる提督など、強烈な印象を受けたが、いずれも主役のレオン・カーファイやジェット・リーの敵役だった。風貌もクセ強で、マニアをうならせる悪役として大成しそうだとは思っていた。ところが30年も見続けていると、笑顔は少年のように爽やかだし、目を伏せると知的で思慮深い雰囲気も漂わせ、人情家でありながら、いざという時は不正や悪を許さない正義のヒーローにしか見えないから不思議だ。ドニー、恐るべし!

 なので今回、ドニーは刑事から転職して罪を追及する検事になる役といっても違和感はまったくなく、むしろ英国式の法廷カツラが誰よりも似合う。

法廷でのドニー検事。かつらも似合っている。

 冒頭、ドニーがスーパー刑事として凶悪集団と戦うド迫力の銃撃戦を堪能させてくれたうえで、その後検事に転職というサービス満点の展開だ。

 この戦闘シーンで特筆すべきは、今までのドニー映画には見られない、ドニー視点で捉えたアクション映像が大迫力で、手持ちカメラによるダイナミックな映像含めてスピード感溢れるアクションシーンに仕上がっている。このあたりは『HiGH&LOW』シリーズ等を手掛けた大内アクション監督の演出によるのだろう。冒頭からびっくりするような手に汗握る強烈な場面の連続だ。

 (※ちなみに大内貴仁は本作で第43回香港アカデミー賞最優秀アクション監督賞にノミネートされた)

スーパーコップ、ドニーの冒頭でのド迫力の大銃撃戦!

 そして7年後、検事に転職したドニーが最初に担当するのが、貧しい少年が罠に陥ったコカイン密輸事件だ。同僚検事の太ったおじさんは、香港映画界が誇る名脇役ケント・チェン。『追龍』ではアンディの忠実で男気のある部下だった。ドニーとは『イップマン』シリーズや『導火線 FLASH POINT』(2007)でもたびたび共演している。目付はかなり悪いがこのおじさん、ドニーを時に諫めながらも手助けしてくれる最高の同僚だ。

 劇中、残業しながら2人が話す場面がすごくいい。

 きみはなぜ検事に転職したんだ? とケントに聞かれたドニーは、「この仕事は永遠に光り輝く灯(あかり)のようだと思ったからだ 正義の光を市民1人1人の心の隅の暗がりにまで届け明るく照らす」そんな仕事だと思ったからだと言う。素晴らしいセリフだ。

 本作のタイトル『プロセキューター』は我々にはなかなか馴染みのないカタカナ言葉だが、原題『誤判』にはずっしり重い責任と厳しい現実が感じられる。ドニー扮する検事のセリフに「司法過程のわずかな綻(ほころ)びで正義は脇をすり抜けていく」というセリフもある。ここらあたりは本作のテーマといえるだろう。

 ドニーの所属する検事局の上司にフランシス・ン(個人的に大好きな俳優)、大判事役のマイケル・ホイ(もちろん『Mr.BOO』の香港映画界の大重鎮だが、近年も『風再起時』(2022)、『ラスト・ダンス』(2024)と大活躍)と香港映画界を代表する名優たちを見ることができるのも本作の贅沢なところだ。

 脇役陣も負けてはいない。歌手でもあるジュリアン・チャンも、凶悪な悪党マーク・チェン(この人は以前インタビューしたが日本語を話す野球好きなナイスガイ)、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』のジャーマン・チョンも出演している。

 忘れずに挙げておくと、悪の親玉にレイ・ロイ、冤罪事件の被告少年の祖父役がラウ・コン。ベテランのラウ・コンはユンファ主演の『いつの日かこの愛を』(1989)や『プリズン・オン・ファイアー』(1987)の渋い演技が印象に残るが、本作で健在ぶりを見ることができて嬉しかった。

 これら香港映画界のレジェンドたちが本作のドラマに厚みを加えてくれている。

 さて、肝心のドニーのアクションシーンだが、冒頭以外でも中盤で2か所、そしてクライマックスには大バトルシーンが用意されている。

これは中盤でのアクションシーン。100人近い敵(ケント・チェン検事の多少誇張表現)と闘うドニー検事。こうやって改めて見ると、ドニーの蹴りの美しさは芸術的だ。

 あまりネタバレせずに書きたいが、香港メトロの車内での格闘シーンはアクション映画史にも残るであろう名シーンだ。そもそも地下鉄車内での本格バトルは僕の記憶にはない。劇中、地下鉄で通勤するドニーの検事の姿をさりげなく描写されている。お馴染みの香港メトロのプラットフォームやコンコースを歩くドニー・イェンの通勤風景はなかなかレアだ。

 ドニーのアクション映画で筆者が最も好きなシーンは、『SPL/狼よ静かに死ね』(2005)のウー・ジンとのビル路地での死闘場面だ。ナイフ使いの凶悪犯ウー・ジンの迫力もすごかった(ドニーの同僚をほぼ皆殺しにした)。「アイツは俺が仕留める!」という決意のこもったドニーの表情に観客の我々もノリノリになる。警棒で間合いを取りながら闘うドニーのカッコ良さに痺れた。縦の構図も効果的で、相手との「一騎打ち感」も大変出ていて興奮したものだ。

 今回もすごいぞ。狭い地下鉄車内(縦の構図だ)での馬鹿力の怪人や武器凶器を手にした手下どもとドニーの一騎打ち! 興奮しないわけがない。よく考えると彼は検事なのだが元々はスーパーコップだ! ドニー検事には裁判所に駆け付けなければならない、というタイムリミットだってある。絶対絶命な状況の中で、法廷証人を守りながら必死に闘うドニー! もうこれは映画館のスクリーンで堪能するしかないではないか。

香港メトロ車両内での壮絶な死闘!もう車両はめちゃくちゃだ。

 必見情報として最後に一言。本作にはドニーの実父(クライスラー・イェン)がゲスト出演している。ドニー扮するフォック刑事の父親役である。車椅子の老人だが、一見して気品があり、只者ではない雰囲気が漂っている。

 ここはとても心に沁みる場面なのでご注目を。

ドニーが実父(クライスラー・イェン)と共演したレアなシーン。美しい場面だ。

 少し古い話になるが、『ドラゴン危機一発'97』が公開されたころ、香港でドニーにインタビューした際(その頃はネット情報があまりなかったので)、ご両親のことを直接聞いてみたことがある。以下がドニーの発言である。「自分には音楽のセンスがあると思います」と言ったあと、

「母親はソプラノ歌手だったし、父も音楽をやっていて音楽一家だった。私もピアノを弾きます。ただ、母は私を生んだあと身体を悪くして、身体のために武術を始めて達人になった。だから私は音楽と武術、両面の影響を受けて育った。当然、どちらかを選ぶか迷ったんですが、私は武術家の道を選んだ」(「香港電影城5 香港映画ルネッサンス」)と答えている。

 ドニーの父親がドニーにピアノを手ほどきしたのだろう。香港の新聞「星島日報」ボストン支局の記者だったとのことで、身にまとう知的な雰囲気も納得できる。

 あ、もう一つ最後に。見どころとしてフランシス・ンとドニーが格闘(?)するサービスシーンもあります。これもぜひ劇場で。

ポスタービジュアルが最高だ!「たとえ法が許しても、俺の正義が許さない」の惹句に痺れる!

筆者 柚木 浩
書籍『香港電影城』シリーズの元編集者&ライター。
香港映画愛好心に火が点いたのは『男たちの挽歌』シリーズ『誰かがあなたを愛してる』『大丈夫日記』『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』『いつの日かこの愛を』あたりから。
好きな香港映画は1980年代後半~90年代前半の作品に集中しているが、2000年以降のジョニー・トー作品は別格。邦画、洋画、韓国映画、台湾映画も見る。ドラマは中国時代劇、韓国サスペンス系。好きな女優、チェリー・チェン、チョン・ドヨン、イ・ウンジュなど。好きな男優はチョウ・ユンファ、金城武、アンディ・ラウなど。ハリウッド映画、ヨーロッパ映画、韓国映画、邦画など広く見ているがSFファンタジー、ホラー・怪獣映画などジャンル映画も好き。

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