『韓国ミュージカル ON SCREEN』の第一弾『エリザベート』を観てきました。
なかなか観る機会がない作品の映像化を映画館で体感できる今回のプログラムは本当に嬉しい限りです。
ウィーンミュージカルの記念碑的な『エリザベート』 日本の東宝版、宝塚版のナマの舞台を観ていますが、韓国版はとにかくキャストの歌唱力のレベルが非常に高い。
自由を求めて叫ぶエリザベートの熱唱、エリザベートに想いのたけをぶつけるトートの熱唱がもう圧感で、映画館にも関わらず拍手しそうになったほどです。
限界に挑戦的な歌唱ではなく、凄まじい迫力で歌い上げているのに余裕を感じさせる。歌に連れてが気持が持っていかれる心地よさをたっぷり味わいました。

演出は周り舞台を多用する場面転換でストーリーの流れを途切れさせることなく展開させ、照明やプロジェクションマッピングを駆使して『エリザベート』の世界観を表現。東宝版、宝塚版より幻想的でした。
トートがルキーニにナイフを渡すところやラスト、エリザベートとトートの抱擁の前でルキーニが処刑されるシーンが衝撃的でドラマテックでした。
また、エリザベートの葛藤、ルドルフの苦悩、義母との三角関係がより浮き彫りになっていました。
今回、映像化でよかったと思ったところはカメラワーク。観るべきポイントがその時々フォーカスされ、見どころをしっかり観られるのが大きなメリットでした。劇場公演ではオペラグラスでもここまでのアップの表情は見られないし、場合によっては重要なポイントを見逃してしまうことも無きにしもあらずですがそれがない。
しかも、日本語字幕が洋画のように出るので、劇場公演のサイドの字幕より見やすく、作品への没入感を高めます。
主要キャスト全員がよかったのですが、とりわけ目を奪われたのはルキーニ役イ・ジフン。シニカルな犯罪者を時には軽妙に時にはシリアスに演じ、存在感を発揮しました。狂言回し的な役でプロローグからラストまで出ずっぱり。客席降りでも観客を盛り上げていました。
ミュージカルでもこんなに実力のある人なのだと目を見張りました。
実は拙著『韓国ドラマ缶』(マガジンハウス)でイ・ジフンにインタビューしているのです。当時は歌手として8年のキャリアを持ちながら俳優にも初挑戦。ドラマデビュー作となった『かわいい女』(03年)のときにソウルのMBC局での取材でした。
トレードマークでもあるぷっくり唇の口角を上げた笑顔がとてもキュートな好青年でした。

主要キャストのひとりであるジフンの役柄は8歳年上の大学講師に恋する御曹司役。
ドラマ初出演できっといろんな準備をしたら違いないと予想していたら、あろうことか撮影の2日前に出演が決まったそうで
「何の準備もできずに現場に入ったんです。台本は5日分できてたんですが全部読む暇もなくて…」というとんでもない状況でのチャレンジだったのです。
「年上の女性を好きになる役なので、年下の男の愛嬌を出したいと思いました。でも普段僕自身無愛想な方なので難しかったんですがやっているうちに自然といたずらっ気のある面が出てきました」と役作りを語ってくれました。

歌手と俳優を両立させることについて
「両方の才能を発揮するのは難しいことだし、本人の努力も必要だけど、歌手と違って自分の演技で見る人が泣いたり笑ったりしてくれるのは素敵なこと」
と発言していたジフンが、努力を重ねてこんな素晴らしいミュージカルで大活躍するスターになるとは本当に感慨深いです。
ちなみに、韓国ミュージカルを始めて観たのは『ジキルとバイト』でした。
主演はチョ・スンウ。ミュージカル好きなのでブロードウェイで観たこともありましたが、どちらかというと地味なルックスで映画やドラマの実力派俳優だと認識していたスンウ。その素晴らしい歌唱力と舞台での華のある姿に心底、驚きました。のちに韓国が誇るミュージカルスターでもあると知って納得でしたが…。
韓国ドラマ、K-POPに比べて、敷居が高い韓国ミュージカルですが体感した人は必ずその完成度に驚嘆し、また観たいと願うはず。その入口になるのが映像化されたものだと思います。
私の頭の中では、鑑賞後「闇が広がる〜」「踊るなら命果てる〜」のメロディが繰り返されています。
SUPER JUNIORのキュヒョンが主演する第二段『ファントム』も絶対、観に行かねば!
◾️作品情報
『エリザベート』
2022年公演版・2024年韓国劇場公開作品
脚本・作詞:ミヒャエル・クンツェ
作曲・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
韓国語作詞:パク・インソン、キム・ムンジョン、
クォン・ウンア
演出:パク・ジェソク
主演:エリザベート役オク・ジュヒョン トート役イ・ヘジュン ルキーニ役イ・ジフン
2022年/韓国/カラー/162分/ビスタ/5.1ch
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『韓国ミュージカル ON SCREEN』公式サイト
村上淳子(むらかみあつこ)
映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家 雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。演劇、ミュージカル好きでもある。(社)日本ペンクラブ国際委員会委員。





