エミー賞を史上最多18冠を獲得した米ドラマの『SHOGUN 将軍』(以下、将軍)で大蓉院/伊代の方を演じているAkoさんが『FBI:インターナショナル』の撮影のため帰国。昨年は著書『lt’s me,Ako! NYで劇団を設立した元タカラジェンヌの話』も出されたAKo さんに貴重なインタビューの機会をいただきました。
Q:宝塚歌劇団を退団後、日本の芸能界を経てニューヨークで活動していらっしゃるその原動力は?
「自分の演技を高めたい、あんな風にお芝居できるようになりたいという気持だけです。藤間紫先生の演技にインスパイアされて師と仰いだのもそうですね。やりたいと思ったらもうそれしかなくなってしまう。何があろうとやってみる。しぶとい。あきらめないんです(笑)」
Q:『将軍』の出演はオーディションで勝ち取られたそうですがー。
「エージェントからオーディションの話を聞いて受けました。1回目は長い2シーンを演じたセルフテープを送りました。その後、2回目はズームで監督とのオーディションで3シーンを演じたのですが、「こういう風にやってみてください」などいろんなパターンの要求があり、なんと1時間ぐらいかかったんです。普通は10〜15分なので驚きましたが、しっかり見ていただきキャスティングしていただけたことに感謝しています。本当に素晴らしい作品に参加させていただき幸運でした」
Q: ここまで『将軍』が世界的に人気を集めたのはなぜだと思われますか。
「まず脚本の素晴らしさ。ジャスティン・マークスとレイチェル・コンドウがとにかく何度も練り直し書き直して良い脚本を書いたこと。主演とプロデューサーを兼ねた真田広之さんが、徹底的に日本の良さ、正統なものにこだわって表現されたこと。ご自分の出演シーンが終わったら黒ずくめの服装に着替えてヘッドフォンをつけてスタッフの1人として、1から10まで関わられた。全身全霊をかけて『将軍』に人生を賭けた真田さんの思い、強いエネルギーがすべてのシーンで俳優だけでなくスタッフまで周りを巻き込んだことが成功の秘訣だと思います」
Q:真田さんとの競演で印象に残ったことは?
「太閤殿下が亡くなったシーンは蝋燭の灯りだけで非常に暗くてカメラの位置がわかりにくく戸惑っていたんですね。それに気づいた真田さんが、一緒に出ていたにもかかわらすか、すぐに来てくださり“ここです”と指示してくださって助かりました」
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Q:役のモデルとも言われる“ねね様”を意識されましたか?
「役柄は太閤殿下の奥さんですが、描かれた人物像が違うので意識することはなかったです。“ねね様”は優しいイメージですが大容院は策略家。自分と太閤の間に子供がいないからなんとか作りたい。そのために落ち葉の方をリクルートするなど強い行動をとる人物ですから」
Q:撮影で大変だったことは?
「ロケはバンクーバーで行われたのですが、コロナの最中だったのでその対策。毎日ホテルでPCRテストや現場でも消毒が欠かせなくて進行も遅れがちでした」
Q:役作りで苦労されたところは?
「衣装が凄く重かったんです。見た目ではわからないのですが、質感にこだわったきれいな織物で絨毯ぐらい重い。もう絨毯を担いで歩いているんじゃないかというぐらい。(笑)硬くて身体に沿わないのも困りましたが、真田さんが日本から呼んでくださったカツラや着物の時代劇のプロのスタッフがカバーしてくださってありがたかったですね」
Q:『FBI:インターナショナル』の出演はどのように決まったのですか。
「この役はセルフビデオだけで決まりました。役のイメージにハマったのでしょうね。『FBI: 特別捜査班』のスピンオフで『FBI:インターナショナル』シーズン4の22話「外人」です。日本が舞台で私は事件に関わった日本人男性の母親役。お金持ちの役で庭園のあるお宅でロケしました」
Q:健康について心がけていることは?
「1回20分の瞑想を1日2回やります。私は瞑想で日々のストレスを減らして自分を客観的に見られるようになった気がします。食べるものはなるべくオーガニックのものでミネラルウォーターを良く飲むようにしています。でも甘いものは好きです。(笑)毎日、自宅で1時間ぐらいトレーニングは欠かせません。やらないと声も出ないし、まず腹筋ですね。昨年、定期検査でステージ1の乳がんが見つかり手術しました。乳癌と子宮癌は早期発見ができるので、女性の皆さんにはとにかく定期検査をすることをおすすめします」
Q:美容で気をつけていることは?
「スキンケアは朝、お湯を沸かすときに蒸気を顔にも当てて、家にいるときも日差しが入ってくるので日焼け止めをつけます。香料のあるコスメはシミの原因になりやすいそうなので使いません。化粧水はヘチマコロンをふんだんに、乾いたと思ったらメイクの上からでも。日本に比べてニューヨークは乾燥しやすいんです」
劇場内部専門の設計家のご主人ジョシュア・ダックスさんと
Q:俳優を目指している人へのアドバイスは?
「自分の意見を持っていないとアクティングできない。自分が何を感じたかが演技の核になる。自分に正直になること。アクティングは全身全霊にアンテナを貼って感じたことを黙殺しないことです。3年ぐらい前からお能に興味を持ちお稽古していますが、アクティングにもプラスになっています。能面をつけて、身体に響かせる声と動きで感情を表現する究極の演劇だと思います」
Q:今後の仕事の予定は?
「ニューヨークで在住の日本人俳優の劇団「アマテラス座」を主宰しているのですが、今年は原爆投下80周年にあたるのに合わせ、長崎の原爆被爆者で作家の林京子さんの『From Trinity to Trinity』を秋に公演の予定。また、台湾と日本人のハーフである劇作家クリスティン・ハルナ・リーの新作にも出演することになっています」
Q:これから日本人俳優で海外に進出したい人に伝えたいことは?
「まず、日本の文化などを勉強して海外に出てほしい。外国に行ったときに自分の拠り所となるのは“日本人だ”ということ。私は30歳になってから渡米したので言語系列は日本語。文字を言葉として伝える媒体が俳優だと考えていますが、日本語の丹田から出る自分の気持を疎かにせず、自分のなかに落とし込んで英語の台詞と格闘して自然に出せるまで反復しています。いまだに英語は勉強中です」
プロフィール
Ako
東京都出身。二年間の宝塚音楽学校を主席で通し卒業式では社長賞と優等賞を受賞。その後、宝塚歌劇団の月組で8年間「夏海陽子」として「オクラホマ」「ウェストサイド・ストーリー」「嵐が丘」等に出演し新人賞、 歌唱賞、演技賞を受賞。退団後、1981年にニューヨークへ渡り、リー・ストラスバーグ演劇学校に入学。1985年に「C 級横浜裁判」のオーディションに受かり芸名を「AKO」として、アメリカでの演劇活動を始める。代表作は「ヒマラヤ杉に降る雪」「ノー・リザベーション」「スリープ・ウォーク」「大統領のクリスマスツリー」「I Origins」等。舞台ではオレゴン・シェイクスピア・フェステバルに三年在籍し2010年に黒澤明監督の「蜘蛛の巣城」を英語版にリメイクした「Throne of the Blood」で主役の浅茅を演じる。2018年日米バイリンガル劇団『AMATERASU ZA 』を設立。2024年著書『lt’s me,Ako! NYで劇団を設立した元タカラジェンヌの話』(幻冬舎メディアコンサルティング)を上梓。
アマテラス座(AMATERASU ZA)
俳優のためのワークショップも開催されオンラインでも受講できる。また、劇団の活動をサポートする寄付も募っている。
「SHOGUN 将軍」はディズニープラスで独占配信中。
https://disneyplus.disney.co.jp/program/shogun
『FBI:インターナショナル』はwowow、huluで配信中。
■インタビューを終えて
『将軍』では地味な役ながら凛とした存在感を漂よわせていたAkoさん。オフでも優しい雰囲気のなかにキリリとした意志の強さを感じさせました。宝塚という温室からNYで劇団を主宰されるまで数々の困難があったはずだが、品のよい笑顔に苦労の影はなし。来日中に藤間紫さんのお墓参りをされ「明日は藤間流の日舞のお稽古に行くんです」の言葉に、縁と感謝を大切に鍛錬の日々を積み重ねられたことが『将軍』に繋がったのだと納得でした。
アメリカで日本人俳優が戦うためのノウハウも書かれた『lt’s me,Ako! NYで劇団を設立した元タカラジェンヌの話』は、全ての俳優を目指す人に読んでほしいテキストです。
村上淳子(むらかみあつこ)映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家
雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。日本ペンクラブ国際委員会委員。