「華麗」と「加齢」、読み方は同じなのになんと正反対な意味を持つことか。これが『サブスタンス』を観て痛感したことです。
本作は加齢に抗うヒロインを描く異色のホラーエンタテインメント。元人気女優のエリザベス(デミ・ムーア)は、容姿の衰えから仕事が減少し、違法な再生医療“サブスタンス”を試すことに。
自分のなかから脱皮するように現れた若い自分「スー(マーガレット・クアリー)」には、エリザベスの経験も備わっており、瞬く間にスターダムに駆け上がっていきます。
しかし、ふたりには、「1週間ごとに入れ替わらなければならない」という鉄則があったにもかかわらずスーが次第に暴走しはじめ……。
今やレギュラー出演がフィットネス番組だけとなったエリザベスですが、身体のラインを強調するトップスにレギンス姿でも、全く余分な贅肉がない美しいスタイルをキープするほど体型管理も完璧。
ところが、あろうことか50歳の誕生日に番組を解雇されるのです。その理由は大物プロデューサーのハーヴェイ(デニス・クエイド)のあからさまな年齢差別。
失意のどん底から、美への執着、再び成功への渇望で、違法な方法で若さと美貌と栄光を得たエリザベスでしたが、次第に恐ろしい副作用に苦しむハメに。
主演のデミ・ムーアは本作で62歳にしてゴールデングローブ主演女優賞受賞するキャリアの大きな転機を迎えました。いまだに代表作として『ゴースト ニューヨークの幻』(1990)があがることが多かったのですが、全裸シーンも辞さずエリザベスの美と若さへの執着と葛藤を壮絶に表現し高い評価を得ました。
以前、デミ本人も摂食障害や過度な運動に取り組む時期があったそうですが、女性なら誰しも体型に悩んだり、シミやシワを無くしたいと考えたことがあるはず。そんな女性にとって共感度の高い作品です。
脚本と監督はバイオレンス映画「REVENGE リベンジ」(17)などを手がけてきたフランスの女性監督コラリー・ファルジャ。若さと美をもてはやすルッキズム社会を強烈に風刺しながら、女性の内面に深く切り込み共感させ、衝撃的なホラーエンターテインメントを生み出しました。
後半かなりグロテスクな表現で腰が引けるところもありますが、衝撃的ななかに皮肉のスパイスを散りばめた構成で、過度な若返り美容整形へのブレーキにもなりそうです。
◇作品詳細
『サブスタンス』
50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス(デミ・ムーア)は、容姿の衰えによって仕事が減っていくことを気に病み、若さと美しさと完璧な自分が得られるという、「サブスタンス」という違法薬品に手を出すことに。薬品を注射するやいなやエリザベスの背が破け、「スー」という若い自分が現れる。若さと美貌に加え、これまでのエリザベスの経験を持つスーは、いわばエリザベスの上位互換とも言える存在で、たちまちスターダムを駆け上がっていく。エリザベスとスーには、「1週間ごとに入れ替わらなければならない」という絶対的なルールがあったが、スーが次第にルールを破りはじめ……。
公式サイト
https://gaga.ne.jp/substance/
『サブスタンス』 原題THE SUBSTANCE
2025年05月16日(金)より全国公開
[R15+] / 上映時間:142分 / 製作:2024年(英=仏) / 配給:ギャガ
(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS
村上淳子(むらかみあつこ)映画ジャーナリスト/海外ドラマ評論家
雑誌『anan』のライターとして活動後、海外ドラマ、映画を得意分野に雑誌やWEBサイトに寄稿。著書に『海外ドラマ裏ネタ缶』(小学館)『韓流マニア缶』(マガジンハウス)『韓流あるある』(幻冬舎エデュケーション)ほか。共著に「香港電影城」(小学館)シリーズほか。日本ペンクラブ国際委員会委員。