エンタメパレス

映画、海外ドラマ、本を中心に、執筆メンバーの激推し作や貴重な取材裏話など、エンタメ好きの心に刺ささる本音どっさりのの記事をお届けします。

映画『ルージュ』の街を訪ねる②

あの「幼稚園」を発見

 石塘咀市政大厦なる看板を掲げた街市を目安に、トラムを降りる。大通りを南へ曲がり、裏側に進んでいくと、まるで大陸に来てしまったかのような風景に出会う。道端に腰掛け、中国将棋に興じる男たち。どことなく「空気」が違う。じっとりとした、人々の生活の匂い。「観光天国・香港」にイメージされる、あかぬけた近代都市の雰囲気は、ここにはない。
 後で調べてわかったことだが、「皇后大道西」と「山路」が交差するあたりの地域は、かつて多くの「酒家」が立ち並ぶ香港最大の風俗街だった。映画に出てきた「金稜レストラン」は実際にあった店で、現在は跡地に立つマンションに、その名が残されている(でも普通つけるか?そんな名前… ) 、ちなみに「ルージュ」日本語版では「トンツイ」と表記されていたが、香港での俗称は「塘西」。日本で例えるなら、ズバリ吉原だろう。「塘西」と言えば「あーあそこね」というのが、香港人の一般認識なのでだとか。

 急な勾配の通りを上っていくと、見覚えのある立体交差が頭上に現れる。その麓を貫く坂道こそが、アニタがレスリーを待つ「約束の地」である。「3811、同じ場所で待つ」。道行く人に「変わった服を着ている」「色目を使う変な女だ」とさげすまれながら、暗闇のなかにレスリーの姿を探すアニタ。
 また、アレックス・マン扮する記者を伴ったアニタが、「昔、娼館だったところが、今は幼稚園になっているわ」と驚いてみせた幼稚園も発見。その名も「聖類斯幼稚園」。香港大に近いという土地柄のせいか、この付近には、主にキリスト教系らしき学校が多い。



 映画でアニタがいうように、1935年、香港では売春防止法が制定され、塘西に栄えた多くの酒店は閉鎖へと追い込まれた。そして昔の売春街が、今や文教地区とは… .。なんとも皮肉な話である。 

 

松田久美子(執筆時:香港電影城編集部スタッフ&ライター)

 

 

ルージュ(字幕版)

ルージュ(字幕版)

  • レスリー・チャン
Amazon