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映画『ルージュ』の街を訪ねる①

本記事は1998年発行の『香港電影城5』(小学館)の記事『ルージュの街を訪ねる』を再掲載したものです。当時、編集スタッフ&ライターだった松田久美子さんの記事をご本人の同意を得て今回掲載しました。名作『ルージュ』に主演したアニタ・ムイの命日は12月30日。不世出の大スターの思い出にご一読ください。『ルージュ』の世界を追体験できる貴重な記事です。              (エンタメパレス編集部) 

 

それは1枚の「読書カード」から始まった。

 毎回、香港電影城編集部に送られてくるたくさんの「読者カード」の中に、こんな報告があった。
「上湾のさらに西に位置する〈石塘咀〉は、『ルージュ』に登場した元売春街です。どんなところだろうと思って行ってみたら、映画でアニタ・ムイ(梅艶芳)がレスリー・チャン(張國榮)を待つ坂道をちゃんと発見しましたよ」

 ゴールデン・ハーベスト製作ながら、しっとりとした趣で人気の高い文芸大作『ルージュ』(88)。監督は、女性映画を撮影させたら香港一といわれるスタンリー・クワン(關錦鵬)。個人的な話になるが、この人が撮った映画で、「えっ」と我が目を疑うほどその美しさを再認識させられた女優がふたりいる。

 ひとりは『ロアン・リンユィ/阮玲玉』のマギー・チャン(張曼玉)。今でこそフランス映画からお呼びがかかるなど、演技派の名をほしいままにする国際派女優のマギーだが、香港映画になじみの深い日本人の間では、やはり「成龍(ジャッキー・チェン)映画のコミカルなヒロイン」といったイメージが根強かった。それがまぁ、この映画ではどうだろう。はかなくも美しい、1930年代の上海女優を見事に演じ、国内外の映画祭で主演女優賞総ナメにしてしまった。
 そしてもうひとりが、この『ルージュ』におけるアニタ・ムイ。コメディやらヤクザの姉御やら、どんな役でも見事にこなす、骨の髄まで芸人のアニタ姉さんだが、キリリとした男装シーンや、多くの男を手玉に取る売れっ子の娼婦、そして昔の恋人を探し、幽霊となってこの世をさまようものうげな姿まで、とにかく艶やに、ウットリと「女優」しているのである。

 映画の舞台は1930年代の香港。「娼婦」と「商家の跡取り息子」という許されぬ愛を貫くため、手を取り合って心中する如花(アニタ)と十二少(レスリー)。いつまでたってもあの世に来ない恋人に業を煮やした如花が、50年後の香港に現れ、新聞社に勤めるアレックス・マン(萬梓良)、エミリー・チュウ(朱寶意)カップルと出会うところから物語が始まる。

 過去と現代が交錯し、見る影もなく変化を遂げた現代香港の描写が、如花の「想い」や「悲しみ」の深さを、いっそう際立たせるのである。
 そんな映画だけに、ロケ地探訪は興味をそそられる。まずは行ってみよう。地図を片手にわれわれは、セントラル(中環)からケネディー・タウン(堅尼地城)行きのトラムに乗り込んだ。

 

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↓②に続く

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